夜のお店は、昼間とは打って変わって証明を落とした大人なバーになる。オシャレなジャズミュージックが流れる店内は、仕事に疲れた大人のみなさんがお高いお酒を飲みながら、日頃の疲れを癒す場所。最初の方こそ落ち着かなくてソワソワしていたけれど、最近ようやくシェイカーを振れるようになるまで成長しました。ありがとう。
「よう少佐、最近よく顔出すじゃねぇか」
「まあな」
「何だよもしかしてあれかホ「うるせぇ」
まあこのお店の雰囲気をぶち壊しているのが店長自身というのが実に皮肉なことではある。
「いらっしゃいませ、いつもので?」
「ああ」
常連さんのスモーカーさんは最近昼だけでなく夜も顔を出してくれるようになった。というのは店長から聞いた話。酒なら何でもいい男だと思ってた、とは店長の言葉であって、断じて私ではない。
スモーカーさんはいつも初めにエールビールを頼む。隣の島から直送でローグタウンではうちしか取り扱いのない珍しいお酒だ。美味しいらしい。
「アンタは酒は飲まねぇのか」
「はい、わたしまだ16ですし」
もうすぐ17になりますけど。お酒は20歳になってから。ってね、
「は?」
「え?」
「16の若い奴らはみんな飲んでんだろう」
そうだ、この世界に凡そそんな法律は存在しないんでした。はるか昔とはいえ日本に住んでいた頃の記憶は意外なところでひょっこり顔を出して私を混乱させる。
「あ、そ、そうですね」
「酒は嫌いか」
「いや、飲んだことないので……」
スモーカーさんは目を丸くさせると、そうだったかとため息のように漏らした。そんなに驚くことなのだろうか。確かに漫画の中でルフィやゾロ、いいやみんな平気で酒をぐびぐび飲んでいるなあとは思ったけれど。
「俺が初めて酒を飲んだのは15の時だった」
「あら、もっと早いかと思いました」
生まれた瞬間から飲兵衛かと。いえいえ冗談です。
「まあ、アンタと違って可愛いガキじゃなかったがな」
「!」
…これだからイケてるおじさんは困る。
「ご馳走さん、夜勤なんでこれで失礼する」
「あ、ありがとうございました」
夜勤なのに酒飲んでいいのかい、とか。スモーカーさんに子供時代があったとか信じられないとか。それよりずっと、彼の触れた頭の方が熱くて仕方なかった。