とぼとぼ歩いていると、いつかの岸辺にいた。ここは私がこの島に上陸した場所でありルフィくんとエースくんと初めてお会いした場所でもある。あの時は私と転生人生どうなってんだとか思ってたのに今じゃここを離れることが悲しいだなんて、随分と絆されたもんだ。相変わらずチョロい。
「神様ぁ」
ねえお願い、聞いてよ私の話を。
「…なんじゃ」
「うわ本当に出た」
そんな呼んだら簡単に来てくれるもんなんだ。私の思わず漏れた言葉にそそくさと背を向けようとするから、ちょっとお待ちください!と大きな声が出た。誰もいなくて良かった。
「すみません、すみません」
ペコりと頭を下げれば、ふんっと不満げながらも戻ってきてくれた。体育座りした私の隣に神様は胡座をかいて座った。夕陽が眩しくてあんまり目を開けていられない。
「ここはワンピースの世界なんですよね」
私の言葉に、今更それがなんだと神様が言う。
「でも今は漫画の世界じゃない」
だってわたし自身が生きる世界だから。私がまたそう言えば、神様はそれすら当たり前だと言わんばかりに無視された。
「私が思うように生きていいんですよね」
それはつまりこの先、助けたいものは助けるし見捨てなきゃいけないものは見捨てて行くということで。それによって例えば私がかつて生きていたあの世界で、この世界を舞台にした漫画が不利益を被ることがあっても漫画のストーリーがねじ曲がってしまうとしても、それは今の私には何ら関係の無いことで、考える必要のないことなのだ。
──だから私は自分の思うように生きてもいいでしょうか。その言葉は結局誰かに認めて欲しかった自分の弱さのようにも思えた。それでも、私をこの世界に突き落とした張本人であるこの神様とやらには、私の考えや生き方を知っていてもらう義務があると勝手に思ってる。
「……好きにしろ」
やあっぱり。そう言うと思いました。神様はやっぱりちょっと不機嫌で、それでも全然怒ってなんかいなくて。多分だけどここ3ヶ月あまり音沙汰無しで放っておいたのを拗ねているのだと思われる。意外と構ってちゃんなところが絶妙にウザイ。
「何かあったら助けてくださいね」
「お前が助けるべき人間であるならな」
「うわあ初めて神様っぽいこと言いましたね」
ありがとう神様。私が聞こえるか聞こえないかギリギリの声で呟いた頃には、もう神様は消えていた。私もう迷いません。
「…名前!!」
振り返ればそこにはエースくんとルフィくんが待っていた。もう迷わないんだ、本当に。
「帰ろうか」
「おう」
「腹減ったー」