その日、新しい洋服を持ってきたと言ったマキノさんに会ったのは久しぶりだった。私を見つけると、お久しぶりですですと笑った彼女はやっぱりたいそう可愛らしい。あの酒場は相当儲かっていることだろうとゲスいことを考えてしまった。

 ルフィくんやエースくんの洋服は街で買うことは少なく、大体マキノさんが周りで着られなくなった服を持ってきてくれるか、何かを作って余った布で作ることが多いらしい。家事だけでこの家の滞在を許されている私は、もちろん手直し班に配属された。裁縫は好きだ。母も好きだったから、その影響だと思う。

「エースくんはこれが良いかしら」

 何でもいいとそっぽを向いているエースくんはきっと照れているのだろう。素直にありがとうと言うのが苦手な子だから。

「でもコッチもいいから置いていくね」
「何でもいい」

 さっきからその繰り返しである。ちょっと面白い。ルフィくんは動きやすさ重視なのか袖が無いのが良いと言ってる。エースくんは背中に変な文字の入ったTシャツが気に入ったみたい。そのセンスは如何程。

「…名前はどれがいいと思う、」

 控えめに私のスカートを引っ張ったエースくんに、マキノさんはまあと手を口に当てて笑った。そんなに沢山貰っても置く場所がないので貰う服は1回4着。最後の一枚はどれがいいかと珍しく素直にエースくんは私に訊ねたのだ。

「うーん、」

 これがイイよと指さしたのは薄いオレンジのTシャツだった。何の絵柄も入っていないそれの色が気に入った。

「これに私が刺繍してあげる」

 なんだかとてもエースくんに似合いそうな気がするんだ。私がそう言えばエースくんはそれを引っ掴んで、マキノさんにこれ!と言った。やっぱりマキノさんは笑ってる。可愛い。



「すっかり仲良しなんですね」

 私がせっせと刺繍をしている時、隣でルフィくんの服を手直ししていたマキノさんが言った。言わずもがなふたりは食糧調達ナウである。

「ふたりが優しいからですよ」

 たった15歳の小娘に仕事を与えて家に置いてくれたダダンさんのお陰でも勿論ある。

名前さんがいるから優しくいられるんだと思いますよ」

 特にエースくんなんか。──私の手元で徐々に真っ赤な太陽が完成していく。私にとってのルフィくんは可愛い可愛い弟みたいなもので、エースくんは弟っていうよりもっと強い、そう太陽みたいな存在だった。直視してはいけないような、それでいてもっと近くで見たいと憧れてしまうような強い光だった。

「そんなことない、ですけど。でももしそうなら、嬉しいです」

笑った。マキノさんも微笑んだ。

名前さんが居なくなったら寂しくなりますね」
「すぐに忘れちゃいますよ」