ダダンさんの火傷で爛れた皮膚に左手を翳した。こんな全身火傷じゃあ流石に全部を引き受けることは出来ないので、目につく酷いところだけ。焼け付く痛みに、私は顔を歪めた。それでもダダンさんの薄くなった火傷跡を見てどうにかこうにか安心する。この人がいなければ、私とエースくんは昨日のうちに天国行きだったかもしれないのだ。
「──おめぇ本当は何者だい」
いつから起きていたのか、ダダンさんは私に訊ねた。何とも意地悪な質問だ。
「何者って、…天涯孤独の旅人ですよ」
父もいない母もいない、だけど不幸ではない。私はただの旅人だ。私としては真面目に答えたつもりだったのに、ダダンさんは納得してくれなかったらしい。
「その左手の刺青は、」
続けて痛いところを突かれ、私は黙った。こんなときすぐに苦笑いで誤魔化そうとするのは悲しき哉、日本人の名残だ。
「あたしはこれでも、あんたを信用してんだよ」
ダダンさんは答えられないといった私の様子を察して口を開いた。それは分かってる。ダダンさんがいくら片親代わりと言ってふたりを──いや3人を──育ててきたからと言っても分からないことも力になれないこともある。歳の近い私の存在は、ふたりに又良い形で影響を与えるかもしれない、とダダンさんは考えてくれていたと思う。最初は大変なことになったなあと薄ぼんやり思っていたけれど、その意図に気付いてからは私なりにふたりと関係を築いてきたつもりだ。だから、例え私は本当のことを言わない意地っ張りだとしても、どうか信じてほしい。
「大丈夫ですよ。私はふたりを絶対に裏切りません」
ふたりを守るチカラになる、と言った。それを聞いたダダンさんはそうかいとだけ言ってまた少し眠るようだった。
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「薬とってきた」
エースくんが戻ってきたのは、日の暮れかかった頃だった。右手にはしっかりと軟膏が握られており、まあこの状況でお金と交換してくるとも思ってないし、そんな場合でも無いので黙認する。ありがとうと言えば、エースくんは何故か泣きそうな顔をする。
「ダダンさんの火傷なら薬塗ればちゃんと治るよ大丈夫」
慰めても、首を横に振るばかりで嬉しそうな顔を見せない。確かに傷は残るだろうけど生活に支障はないと思われる。
「……お前も火傷してるじゃんか」
エースくんに指摘され自分の右腕を見た。確かにそこにはくっきりと火傷の跡。さっきダダンさんから引き受けたものだから少々程度が酷いのがマズかった。
「本当だ」
「本当だ、ってお前…、」
何やらエースくんは私の火傷に必死だ。最初はおもっくそ警戒されていたのに、よくここまで来たなあと嬉しくなる。私がぽんぽんとボサボサになった黒髪を撫でれば、それでもエースくんは涙を我慢しているようだった。
「私の傷はすぐ治っちゃうから平気だよ」
「でも、!」
「ありがとう、心配してくれて」
嬉しいだなんて不謹慎でごめんね。
「明日は帰ろう、……みんな待ってる」
私の言葉にエースくんはひどい顔で頷く。そんな私たちのやり取りをダダンさんがこっそり聞いて笑っていたとかいないとか。