山賊らしくお金を頂きに隣の隣の村まで降りるというダダンさんとエトセトラな皆さんを見送って、ひとりエースくんとルフィくんの服を直していた。強盗だろうが殺人だろうが、私とはまた別の世界だ。特に止める気もないしそんな正義感を振りかざすほど偉くもない。私はこうやって此処で家事をして野菜を育てて、来るべき時が来たらこの島を出る。だから私は彼等に気をつけてと言えるのだ。
「…名前」
控えめに呼ばれた名前に声を上げると、扉のところにエースくんが立っていた。
「ルフィくんならマキノさんのところだよ」
「違う、」
「?…ああ、ダダンさんなら今ここにはいないけど「違う!」
てっきりどっちかを呼びに来たと思ったのだけれど、違うみたいだ。
「…お前、呼びに来た」
恥ずかしいのか照臭いのか、頬を掻きながらエースくんが言った。ああ、私を誘いに来てくれたのか。そんなことは初めてで、嬉しくって縫い掛けの服を仮止めして立ち上がる。大人しく留守番していろとは言われてないし、戸締りをキチンとすれば大丈夫だろう。
「どうしたの?」
「こっち」
まだ小さな手に引っ張られて、山道へ入った。スタスタと迷いなく進む背中は頼もしい。その背中に愛しさを覚える程度には、すっかり情が移ったなと私は視線を落とした。
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エースくんが連れて来てくれたのは、私と彼らが出会った岸から少し離れた所だった。森が終わって、目の前に広がる大海原。もうこの世界に生まれて15年も経つというのに、私が心の底で知る世界とは違うと思ってしまうのは何故だろうか。
「綺麗」
ポツリと呟けばエースくんは秘密の場所だと鼻の下を擦った。なんて古典的なドヤ顔。可愛いなあと思ったけれど、それを口にすればまた不機嫌になってしまうだろうから黙っておく。10歳って敏感なお年頃よね分かる分かる。
「それも綺麗だな」
エースくんが私の頭につけられた飾りを指差して、これは母の形見なのだと言えば「そうなのか」と何故か悲しそうな顔をされてしまった。父とか母とか、きっとそういう話題には敏感なのだろう。私は母が死んだことを今でも悲しいとは思わないし、もし父がどっかの海で死んだなら天国で仲良くやって欲しいなと思ってる。だから、君がそんな顔をする必要は無いんだ。
「本物と同じだね」
傾きかけた太陽に、髪から外した飾りを翳せばキラキラとして美しい。エースくんはちょっとだけ笑って頷いた。
「連れて来てくれてありがとうね」
「……うどん美味かったから」
「また作ってあげるよ」