3ヶ月平和にバイトする気満々だった私の計画は呆気なく崩れ、今はルフィとエースと共にダダンさんという山賊一味の元でお世話になっている。ルフィくんとエースくんは約束通り、毎日大きな野生動物を引き摺って帰ってくるけれどその大半は私以外の全員のお腹に収まることになる。そして山賊の料理番を任されている──もはやこの家のハウスキーパーの如く働いているが──私は、家の裏の地面を耕して家庭菜園を始めた。ヘルシー海賊団(あれ、名前違うっけ?)にもらった野菜はまた私を助けてくれることになった。本当にありがとうヘルシー船長。
「エースくん?」
家の裏で家庭菜園を始めたと言っても私以外の他に誰も興味はなかったので実質ここは私の庭のようなものだった。それが珍しく畑の傍らにしゃがみこむオレンジTシャツのエースくんを見つけたので話しかけると、ぎくっと肩が跳ねた。話しかけない方が良かった感じかしら。
「もしかしてお野菜に興味あり?」
仲間になる?と冗談半分聞いてみたら、ねぇよと冷たいお返事。寂しいなあ。
「お前こんなとこで何してんだ」
「ん? 野菜育ててるんだよ」
「だから! なんで野菜育ててんだよ!」
なんでって言われると、日中時間があるっていうのと少しでも世話になっている恩を返せればいいかなってその2つしかない。だからそのまま伝えると、エースくんはやっぱり足りねえのか…と全く頓珍漢なことを言うのでそれは違うと大きく否定しておいた。子供2人であれだけ大きな獲物をとれるなら十分すぎるくらいだろう。
「…でも、いっつもあんま食ってねぇだろ」
確かにお肉に関しては負い目もあってあんまりバクバクとは食べてないけれど少しは食べているしそれ以外のものでお腹は一杯になっているから平気。飽食時代を17年生きていた私を舐めたらアカン。1回死んだけど。ハハ。
「そーんなこといいの、」
私がここにいられること自体ルフィくんとエースくんのおかげなんだから。ダダンさん説得してくれて食料も分けてくれる。例え頼んでないとはいえ、嬉しかった。その分、怖くもあったけれど時の流れに身を任せ何事もなく終わることを祈ってる。
「ありがとうね」
ちっともこっちを向かないエースくんの黒髪をわしゃわしゃ撫でると、またやめろよ!と怒られてしまった。可愛いなあ。
「素直になれ少年!ほらこれ持って!」
私がバケツを持って、エースくんに柄杓を持たせる。「な、なんなんだよ」エースくんのまだまだ小さな手を握ってこうやってお水をあげてねと教えれば、なんで俺がとブツブツ言いながらもちゃあんとやってくれた。ツンデレか君は。
「こうやってエースくんがお水をあげれば明日もこの子たちは生きていける」
私はこの野菜と一緒だね。──エースくんはハッとした顔で、あの日ルフィくんが”私に生きていてほしい”と言った時と同じ、複雑そうな顔で柄杓をぐっと握り締めた。
「…俺が必要ってことか」
このあんまりにも不幸で、不器用な少年に関わることが今後どう影響するかは分からない。だけど私はひとりの人間として、彼のために勿論だと告げることにした。