翌朝、目が覚めると腰の辺りにルフィくんがひっついていた。体2つ分は空けて寝たはずなのにここまで転がってきたのが不思議だ。オマケにあんまり可愛い寝顔だから頭をぽんぽんしてあげると余計にひっつく力が強くなって逃れられなくなった。引き剥がそうと多少抵抗はしたが何せ相手はゴム。時間の無駄だと判断して、彼とエースくんのあどけない寝顔を見て30分ほど潰した。別に時間の無駄とは思わない。
そのあと、今度こそ起きて朝食の用意をする。まだ誰も起きていなくて好都合だったので昨日洗濯したあれこれを干した。ロープの張り方がイマイチ分からなかったから適当。まあそこまでは面倒見れないよってことで。
「いただきまーす!!」
それはかつての時代の言葉で表すと掃除機のような、いやもっと大袈裟に言えばブラックホールのような勢いだった。山賊さんたちも流石に朝は人並みの分量なのか、勢い凄まじい兄弟を呆れ半分と言った様子で眺めている。美味い美味いと口の中のものを散らかしながら食べるルフィくんと、何も言わないけれど箸も口も止まらないエースくん。美味しいならそれで良い。かつては朝食は飲むヨーグルト派だったけれど、この時代にそんなもんはなかったのでいずれ生み出すつもりである。とりあえず今は牛乳。苦手だったけど。野性味溢れる匂いが中々新鮮だ。くぅ。
「アンタ、こっからどうすんだい」
「ルフィくん達が村に案内してくれると言うのでお言葉に甘えて連れて行ってもらおうかと」
「そのあとは?」
「暫く滞在する予定なので、まずは働き口でも見つけます」
ごふっと口からせり上がる牛乳の匂いに自分で吐き気がした。生まれ変わっても牛乳って苦手だ。
「おれ嫌だ」
私とダダンさんのやり取りを大人しく聞いていたと思ったら、突然ルフィくんが恐ろしいことを言い出した。嫌だってキミ嘘でしょう。昨日は私に生きていてほしいと感動のお言葉でエースくんを説得してくれたじゃないの。なんでまた。
「えっ、ルフィくん?」
「ここにいろ! 名前」
まだ7歳の少年は曇りのない瞳をしていた。それなのに私の腕を掴む力は15歳の私より遥かに強い。こんなのって不公平だ。
「おれは名前の飯が食いてぇ」
「それは嬉しいけど、でも──」
そんな理由で許されるわけないよと私は慌てる。15とはいえ、こちとら人生2回目。そこらの女の子よりは世の中を知っている。だからありがとうという言葉と共にこの世の道理ってものを優しく教えてあげようとしたら、ダダンさんが代わりに烈火の如く教えてた。こっちがビビった。
「だからここは民宿じゃないんだよ!人ひとり養えないガキが偉そうなこと言うもんじゃないよ!」
全くもって正論である。それでも諦めないルフィくんは私のどこをそんなに気に入ってくれたんだろう。やっぱりご飯のうまさか。男はどこの世界だって胃袋掴めば一発なのかそうなのか。
「養えたらいいんだろ」
わーきゃーと騒ぎ立てるルフィくんの横でエースくんはとても冷静だった。その冷静さが私は怖かった。この場を納める解決案を出される前に、主要キャラ達とのこれ以上の接触は避けるべきではないのか。頭をフル回転させる前にエースくんに詰められる。
「こいつの飯はこれまで通り俺とルフィが取ってくる、寝る部屋も俺らと同じ部屋でいい」
洗濯と掃除もこいつがやれば文句ないかと言った。あれれれのれ、エースってこんな知的キャラじゃなくね。どっちかっていうと弟によく似た破天荒おバカではなかったろうか。十数年前の記憶はあやふやだ。ダダンさんが押し黙って、室内は静寂に包まれた。相も変わらず目つきの悪いエースくんは改める気もないらしい。
「……勝手にしな」
沈黙を破ったのはダダンさんの一言で、その言葉に私は驚きと絶望でホワイトアウトしルフィくんはやったーと腕を伸ばして屋根に穴を開けた。おバカ。ま、まさかダダンさんが3人目の居候を許可するなんて予想外だ。鉄拳制裁でねじ伏せられると思ってたのにオーマイガー。
「その代わり、出ていく日まできっちり働いてもらうからね!」
ビシッと向けられた人差し指に私は震えあがる。そこに私の意思は介在しない。どうにかこうにか何事もなく3ヶ月を終えるしか道はないらしい。
「良かったな!」
「う、うん」