コロシアムの混乱を伝える実況の声。崩れてゆく城壁の音。窓の外はいっそう騒がしい。その中で、この場所へ向かってくる奇妙な足音。喧騒の中で全てがスローモーションのように見えた。
誰かが近づいてくる。その人に気づいた時には白い刃は既にドフラミンゴへと向けられていた。壁際で拘束されていた誰かがその剣士の名前を涙交じりに叫ぶ。——「キュロスか!?」ドレスローザの歴史に名を残す、伝説の剣闘士。
「今、助けに来ました!」
彼の刃がドフラミンゴの首を飛ばした。その衝撃的な光景に、私の口から小さく声が漏れた。ごとり。重たいものが床に落ちた音。こ、怖。咄嗟に目を逸らした。グロテスクなのは普通に苦手。血が吹き出したらひっくり返っていた自信ある。
「トラ男〜〜!!名前〜〜!! 助けに来たァ〜〜!!」
「麦わら!」「ルフィくん……!」
ここに来てようやく主人公の登場だ。流石に安心感が違う。ローさんとは違い、傷は負ってないようだし。ここまでの流れが、私にはまるで分からないんだけど、この先のことも何も分からないから、まあ良いとして。
「ここに用はないはずだぞ、麦わら屋」
ローさんの話など、まるで聞かずにルフィくんは小脇に抱えていたお姉さんから鍵らしきものを受け取った。この綺麗なお姉さんが、さっき報告にあったヴァイオレットさんかな?分からん。
ローさんを助けようというルフィくんの気持ちとは裏腹に、ローさんは同盟は終わったの一点張り。そうでも言わないと、彼の復讐にルフィくんを巻き込むことになると危惧しているんだろう。不器用に優しい人だから。しかし、ルフィくんは一度決めたら貫き通す男だ。彼がドフラミンゴを敵だと言ったのなら、勝つまで、戦いは終わらない。いっとき一緒に暮らした上に、『ワンピース』の読者だった私が言うんだから間違いない。
「同盟が切れりゃまた敵同士! おれを逃せば、お前を殺すぞ!」
「動くな! 海楼石に触れねェからカギ外すの難しいんだ」
「しっかり!」
「あ、ルフィくん私やろうか?」
「名前まで聞いてねェだろ、お前ら!」
ローさんの考えを尊重したいのは山々だが、何より鍵を外すのが先決だ。あとはどうするのかは、戦える人たちで決めればいい。
「まずはカギ外してから考えましょう。ね?」
ルフィくんから、鍵を受け取ろうしたまさにその時だった。地震のように床が歪み、私たちは立っていられず跳ね上がる。轟音の後に窓からズズズと顔を出したのは、気味の悪い石像のような大男。あれがピーカ? ってことは生きてる? どういうこと?
「フッフッフッ 想像以上にしてやられたな……」
「うわァ! ミンゴが生きてるーーーー!」
先ほどの一撃で夢見た勝利は露と消え、『鳥カゴ』という言葉と共に絶望の波が押し寄せる。やっぱりあれじゃダメだ。彼はイトイトの実の能力者。体の一部を糸に変えることなど容易いだろう。
このまま戦いのターンが始まるのなら私の出る幕はない。そうならせめて——、
「バッ、動くな。死にてえのか」
「カギだけでも——」
ローさんの方へと動き出そうとすれば、もうドフラミンゴを中心に戦いが始まった。早いって。危ないって、マジで。攻撃で、屋根が吹っ飛ぶ。耳をつんざく大きな音。規模がでかい。
「ピーカ、邪魔者共を外へ!」
「え?」
さっきと同じようにまた床が歪む。石で出来てるんじゃないのか、この城は。