「急いでみんな! 頑張って走って!」
ナミさんの声に背中を押され、子供たちと一緒に懸命に走る。この研究所にあのガスが充満するまでもう10分もないはずだ。
「あ、ガスが漏れてます!」
「まずい……」
流石に耐えきれなくなったのか、それともそういう仕様なのか。研究所の壁が割れて、そこからガスが入り込み始める。子供たちは怖い怖いと泣いているのも無理はない。子供は理由はわからなくても、恐怖に敏感な生き物だ。
なんとか早くその場を脱するために、また走る。もう肺に血でも溜まったんじゃないかと思うくらい、口の中が血の味だ。ひと段落ついたらランニングでも始めた方がいいかもしれない。体力なさすぎる。
「ルフィ!」
先頭の方から、ナミさんがルフィくんを呼ぶ声。どうやら合流地点のR棟まで無事に辿り着いたらしい。苦しくて目がチカチカする。
膝に手をついてゼエハアと息をする私。みんな、あんなピンピンしてるの絶対普通じゃない。私が一般人で平均だ。知っていたけども!
「――生きてるな」
「ローさん……!」
生きてるなって、それはこっちのセリフ。
トロッコで脱出するというので、私は子供たちをトロッコに乗せるお手伝い。ルフィくんたちは一度別れていたチョッパーさんたちと合流するのを待っている。
子供たちを全員無事に乗せ終え、トロッコに乗って私たちも全員揃うのを待つ。どうなることかと思ったが、なんとかここまで生きていられたみたいだ。
「怪我してねえな」
「たくさん守ってもらったので」
怪我だらけのローさんが、私の煤のついた頬を拭う。自分はボロボロのくせに、私の心配ばかり。彼の傷を拭ってやりたいけれど、生憎、私の持ってきたカバンは今頃、毒ガスに巻かれているだろう。
「ローさんも、生きててよかったです」
「まだ死なねえよ」
「なんですか、“まだ”って」
彼がバツの悪そうな顔で、私の方を見た。まだ、死なない。自分の復讐を、信念を遂げるまでは死なない。彼の言いたいことも、考えていることもよく分かる。私もかつて、彼と同じように考えていたのだから咎めようもない。自分の命よりも大事なもの。彼の人生で何にも変え難い思いがあることもわかった上で、彼を愛そうと言っている、ただ、いつも寂しさの裏側に、愛はあるものだから。
「……今のは、意地悪でしたね」
「いや。思ったことはちゃんと言え」
「はぁい」
じゃあ、愛してる。私よりも長く生きて。誰かを失うのは怖いから弱い私にはきっと無理だ。ほらね、言えないよ。
:::「急げー! 逃げるぞ、野郎共〜〜〜〜」
ルフィくんの声がする。全員到着。たくさんの犠牲はあったけれど、それよりも多くの命を救えただろう。そう、信じたい。
「しっかり捕まってろ」
「振り落とされたら拾ってください」
「落とすかよ」
ローさんが私の腰を抱いた。ローさんが暖かくてよかった。周りはひどく寒いけれど、誰かと一緒ならそれも平気だ。