ローさんの入念な準備のおかげで鎖から逃れた私たちは、唯一この毒ガスに四方八方を囲まれた研究所から脱出できるという『R棟66』を目指して進むこととした。私はナミさんやゾロさん達と一緒に子供たちを回収しつつ、即刻脱出を図る組。ローさんやルフィくん、スモーカーさんはまだまだ戦いが残っているらしい。

「お前はあっちに着いていけ。前には出るな」
「身の程はきちんと弁えてます」

 ローさんが鬼哭を背負って、ふっと笑った。それだけで泣きたくなるのは、彼の手も表情も優しくて、それなのに1時間後に絶対に会えるという保証がないから。離れていく手に縋りたくなる気持ちを必死に抑えて、無理矢理にでも笑ってみる。笑顔は、幸運を呼ぶだろう。“スマイリー”なんて悪趣味な名前のつけられた毒ガスの前では無意味かもしれないが。

名前、行くわよ!」
「はい!」

 ローさんがほら行けよと私を目で促す。彼は強い。大丈夫、大丈夫。ちゃんと次の海も、ローさんはルフィくんと共に戦う人だ。

「また後で」

どうか、どうか。

:::

「ったく、なんて頭のおかしなもの作ってんのよ」

 ナミさんと一緒に茶ひげさんの背中に乗せてもらっている。申し訳ないので自分で走ると言ったのだが、どう考えても遅いし死ぬと全員の同意を得てしまったので、仕方なくだ。失礼な話だが足の速さには全く自信がない。

名前もそう思うわよね!?」
「毎回どこ行っても思ってますね……」

 この世界の人間、というか私の周りになぜか現れるキャラクター全員が普通じゃないし、なぜそんなことを?みたいな人ばっかりなので、もはや正常な判断ができない。ナミさんの雲と雷が出る武器も大概すごいと思う。どういう理屈?

「アンタ、そんなんでよく戦争に首突っ込んだわね」
「それはよく言われます」

 端的に言えば火事場の馬鹿力。エースくんを助けたい助けたい助けたいばっかりで、他のことをあんまり考えていなかったので。助かったのはローさんのおかげだし、私はただ運がいいだけだ。この恐ろしい研究所内で使い切らないように祈っておこう。

 B棟内。中は火を吹くドラゴンのおかげすっかり火の海である。化け物みたいな動くガスの次は、シンプルに火を吹くドラゴンか。世界観がすごいな。着いていけないや。

名前、頭伏せてて! 髪焼けるわよ」
「はいぃ」

 邪魔にならないように後ろに下がる。お侍さんとブルックさんがどっちが竜を倒すのかと争っているうちに、ナミさんが雷トラップで倒してしまった。戦う女の子ってかっこいいから無敵だ。

 なんなくそこを通り抜け、次はなんだと思ったら、上の方で大きくなったチョッパーさんが子供たちを抑えるのに必死になっているようだ。二手に分かれ、私たちは子供たちのいるビスケットルームへ。乗せてもらった茶ひげさんにお礼を言って、階段を駆け上がった。

 どうやら子供たちに与えられていたあのキャンディドラッグを遠ざけようとしたところ、子供たちが暴徒化してしまった、と。薬。だめ、絶対。

「早く追わなきゃ」
「ああ、チョッパーさんは私が。ナミさんは両手が空いてた方がいいですよね」
「うん、任せたわよ」
「ごめんな〜〜 名前〜〜」
「このくらいしか本当できることないので……」

 にしたって、この部屋突然寒くなったり、モネさんみたいな羽の生えた綺麗なお姉さんがいたり、気分がめちゃくちゃだ。今は寒くて凍えそう。さっきまでは、走りすぎで息ができなかったというのに。

名前

 走り去ろうとした時、モネさんが私の名前を呼ぶ。

「――寂しくなるわ」

 綺麗な人だった。綺麗な翼だった。でも、だめだ。私は前へ進まないと。

名前、どうした?」
「ううん。すみません、早く追いましょう」