「久しぶり? どういうことだ」
「スモーカーさん、彼女とお知り合いで⁈」

ぎろりと、こちらを見るローさんの目が怖い。そんな人殺しみたいな目を仮にも恋人に向けるのはどうかと思う。黙っていた私も悪いけど。

「昔の顔見知りだ」
「そ、そういうことです」
名前とケムリン、知り合いだったのか!」
「ふふ 世界は狭いわね」

説明しろ、とローさんが目で迫る。そんな悠長なことをしている場面ではないのかもしれないが、焦っているのが私とたしぎさんだけなので、言い出せそうになかった。

 説明しろ、と言われたって、説明するような、言葉にして表せるような関係は、私とスモーカーさんの間にはなかった。

 私が、ルフィくんたちと別れたあと、一時ローグタウンにいたこと。そこでレストランで働いている時に常連だったのが、スモーカーさんだったこと。よくしてもらっていたのだ、とそう言ってしまえばそれで終いだ。

「お前が前に話していたのはこいつのことか」
「そうです、昔お世話になって」

ちらっとスモーカーさんの方を見たが、クリクリと純真そうな瞳と視線がぶつかる。そうだ、今のスモーカーさん、中身はたしぎさんか。ややこしや。

「あの頃は少佐でしたけど、」
「10年も経てば変わるもんだ」
「そうですね」

それは悲しいような、寂しいような。私の中で、壊れないように、そっと大事にしてきた記憶の一つが彼だったこと、間違いようがない。

「お前も今じゃ海賊だ」

本当だ。そう思えば、たくさんの時間が流れた。語りきれないほどたくさんの時間が。

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「話し中割り込んですまないが、時間だ」
再会を惜しむ時間もなく、ヴェルゴが現れた。優秀な中将の笠をかぶり、その実はドンキホーテ・ドフラミンゴの腹心の部下。こうも長い時間、多くの海兵を欺き通してきたのは、敵ながらあっぱれだ。

 今日、この島は終わる。ヴェルゴと結託した、シーザーの手によって『シノクニ』に変わる。毒に覆われ、生命を許さない恐ろしい場所になる。彼らはそう言った。

「スマイリー! 会いたかったぞ!3年ぶりだなァ!!」

檻の前に建てられた画面。映るのは、先ほど見たスライムのような形をしたナニカ。スマイリーと呼ばれるそれは、大きな飴を飲み込み、君の悪い声を出しながら進んでいく。爆発と共にガスへと姿を変え、逃げ惑う人々を飲み込んだ。

 それは恐ろしい光景だった。誰もが息を飲む。耐えきれずに目をそらせば、苦しそうな顔のローさんがいる。

「大丈夫ですか」
「ああ おれのことよりお前は生きることだけ心配しろ」
「それはわかってますけど、ちゃんと心臓取り返してくださいね」
「ああ」

画面から聞こえてくる叫び声。深く息を吐いた。弱ければ死ぬ世界。自分の命くらい自分で守れ。迷惑をかけるな。生きろ、生きて。彼と、生きていくと決めたのだから、見届けろ。

 現実から、目を背けるな。