肌を突き刺す寒さ。雪に閉ざされた秘密の島に降り立ち、その独特の雰囲気に私は気圧された。私たちが乗ってきた小舟が流れてしまわないようにしっかりと繋ぎ止め、奥へと進む。ローさんは、ただの一言も発しない。

 パンクハザード。
 元政府の研究所のある島で、今は誰の立ち入りも禁じられているという場所に、私たちは今立ち入っている。ズボズボ音を立てながら、建物のある方向を目指して進む。歩きづらいことこの上ない。今日のために新しく靴を買っておいたのは成功だった。いつものスニーカーじゃ今頃、靴下もびしゃびしゃになって、足の感覚がなくなっていた。

「ローさーん」
「……なんだ」
「あてがあるんです?」

迷いない彼の足取りは、少しだけ私を不安にする。この人に見えて、私には見えないもの。この世界にはそんなものが多すぎて、もしも彼が私の見える世界の境界線を越えて向こう側に行ってしまったら、私はきっと見つけられない。

「ああ、あそこに元政府の科学者がいるはずだ」
「なんだってこんなところに、」
「こんな誰も入れない場所で、やることと言えば」
「―――正義の研究でないことは、確かでしょうね」

彼が、そういうことだ、と言って、また進む。何人も足を踏み入れることを許されない場所。そこで行う研究が、人を幸せにするとはとても思えない。

パンクハザード編か。過去、ワンピースの原作を読んでいるとは言え、正直に言って、ここから先はほとんど記憶がない。私のワンピースへの強い印象は頂上戦争で止まっているし、この次がドレスローザ、ローさんとドフラミンゴの最終決戦が行われるというのがせいぜいの知識。やれやれ困ったもんだ。

「私もゾウが良かったな……」
「仕方ねえだろ」

いいや、分かっているんだけども。

 最近、奇妙なことがたくさんあった。奇妙というか、怖いこと。私が買い出しに行った時に、チンピラに絡まれ襲われかけたことが3回、船への強盗未遂が2回で、これはいずれも私が甲板に出ていたとき。他にも妙に人の視線を感じたり、何度か変なおじさんに話しかけられたりと、まあ。俗にいう所の、『私って狙われてるんじゃないですか』状態だった。

 ローさんがそのことに気づかない訳もなく、心当たりを問われたが、そんなこと言われても、正直頂上戦争に激しく介入したことの代償がどんなものか、私自身わかっていないのが本当のところだ。ある、と言えばあるのだが、具体的に私を害をなそうとしているのが誰だと聞かれると困ってしまう。

 そんなわけで、半ば強制的に、今回のパンクハザード同行が決まった。ローさんが離れる隙を狙っているのだろう、という見解はクルーの総意らしく、私が口を挟む隙など、あるはずもない。

 にしたって、ちょいと寒すぎる。中に何枚着ていると思っているんだ。これで防げない寒さを、この先も我慢できるのか自分に問いたい。

「大丈夫か」
「無理かもしれません」
「耐えて歩け」

何のために大丈夫か聞いたんだ……

言われなくても頑張るさ。島に上陸したら、どんな時もローさんから離れるな。ローさんだけでなく、ベポさんにもシャチさんにもペンギンさんにも、とりあえず全員に言われたんだぞ、こっちは。耳にタコができた。

「おい」
「ヒッ」

 恐る恐る振り返って見る。大きな風船のような何かを手に持った、ロボットのような風貌の大男が、こちらを睨みつけている。敵意むき出し。当たり前だけど。

「何者だ ここが何処か分かって入ったんだろうな」
「王下七武海、トラファルガーロー が話があると伝えろ」
「し、七武海……!?」

男は、腰元のレバーらしき突起に手を掛ける。何かのスイッチか。とにかく、肌で感じる殺気があった。

「俺はお前と殺し合いをしに来たわけじゃねえ、さっさと話を通せ」

――シーザー・クラウンにな。