美しい海と街並みに、ほのかな死の匂い。少し前に流行病で村の半分が死んだと有名な町。新世界の航海途中、食料の補充も兼ねて立ち寄ることにしたのは、もちろん医者であるローさんの発案に他ならない。海賊が、お宝のため以外で危ないところに行こうだなんて。しかし、医療の発展にはこうした危険が欠かせないのだ。

 聞いていた話と違い、港は整備され活気に溢れていた。人々の往来も忙しなく、市場にも人と商品がたくさん並んでいる。

「随分お早い復興だな」
「見慣れない食材ばっかり」
「美味いかな? 楽しみだなー晩飯」
「何か食べたいものあります?」

私、ローさん、それにシャチさんとペンギンさんの4人で買い出しへ。壊れた武器を買い足したいという、シャチさんの要望で、ひとまずマーケットの一角にある武器屋に向かった。こじんまりとした店内、壁一面にずらっと武器が並んでいる。もちろんいい気はしないけれど、なくてはならないものだ。……まあ、怖いけど。

「お客さんたち、海賊かい?」

ニヤニヤと笑いながらm店主が話しかけてくる。この口調、職業柄、慣れているのだろうか。私は一般人だったら、海賊なんて怖くて絶対話しかけない。絶対、だ。

「俺は医者だ。――こっちは用心棒」

ローさんが武器を見るシャチさんとペンギンさんを指差す。上手い言い訳だ。さしずめ私は看護婦って言ったところだろうか。医療知識はないけれど。

「お医者様ってことは、あの病気のことを調べに?」
「まあ、そんなところだ」
「それは一足遅かったなあ」

もうすっかり患者はいねえよと、店主は笑う。かなり致死率の高い病気だと聞いていたけれど。人当たりの良さそうな笑いを浮かべる店主に、ローさんは何も言わなかった。

 武器を揃えたシャチさんとペンギンさんは荷物になってしまったと、先に船に帰ることに。食料の買い出しは、本屋に行った後にローさんが付き合ってくれるというので、私と二人、マーケットのさらに奥へ向かう。

 マーケットの一番奥にあった古書店も、古いが綺麗に維持されている。病気で壊滅寸前まで追い込まれたというのは、少々誇張された噂だったのかも。住み良さそうな島ではないか。

「お目当の本ありました?」
「妙だな」
「ん?」

 本屋から出てきたローさんが怖い顔してる。

 いや、いっつも怖い顔だろうって、それはその通り。でも、今回は本当に怖い。鋭い視線で、周りを睨みつけているから、通りすがりの人、向かいの店の人、みんなビクビクしているではないか。さっき医者と言ったのも、これじゃあ意味がない。こんな怖い顔の医者、私なら願い下げである。

「何かあったんです?」
「病気に関する文献が一切ない」
「えっ」
「店主が言うに、復興の際に全て発禁になったらしい」
「前を向いて生きよう的なことですかね」
「不自然だ」

ローさんが言うに、島外ではこの島の伝染病にまつわる文献はいくつも出回っていて、医療の発展のために各所で研究されているらしい。売れば価値になるような代物を、金銭的に余裕のない島が売らない理由が無い、と。――まあ、確かに。その通りだけど、だからなんだと言われると難しい。

「一番気味が悪いのは、老人がいねえってことか」

この島に、何があるって言うんだ。