こんな事件、あっただろうか。テレビシリーズまで完璧に記憶しているほどはコナンオタクではなかったし。事件の内容を思い出しているうちに、事件は電光石火の解決となった。天下の眠りの小五郎もみんなは良いもの見れたくらいの感覚だろうが、こっちとしたらヒヤヒヤして見ていられないのだ。
逆になぜあんなガバガバシステムでバレない? そこは物語補正ってやつなのかもしれないが、バレるんじゃないかと常に落ち着かない。だから出来れば事件には巻き込まれたくない。人が死ぬのは、当たり前だけど怖いのだ。
「名前さん!」
「ああ、名探偵に蘭ちゃん。事件解決お疲れ様」
「か、解決したのは小五郎おじさんだよ?」
「そうだったね」
暗い顔してるね、と言われて自分が暗い顔をしていることに気づく。みんなが安堵し、胸をほっと撫で下ろす中、まさに事件の犯人のような顔をしている私は、今度こそ悪目立ちしているはずだ。致し方なし。
「私たち、警部さん達と帰りますけど名前さんも乗っていきませんか?」
「あーいや、でも私は「松田刑事、心配してるんじゃない?」
以前からうっすらと思っていたが、もしかしてもしかすると、名探偵は私と松田さんに何か恨みを感じているのか。それとも、齢17歳にして三十路の恋愛を面白がっているのか、どちらかだ。許し難い。
ニタニタと楽しそうな名探偵の思惑通りになるのは悔しいが、もうこの時間ではタクシーに乗るしかないし、送ってもらったほうが安全だ。きっと心配しているだろう陣平さんには後で連絡しよう。理不尽に怒られる気がする。
毛利さんに蘭ちゃん、名探偵。それに目暮さんに、高木さんに佐藤さん。こう見ると、豪華なメンバーだ。私がその中にいることがまるで信じられない。まさか帰り道まで変な事件に巻き込まれることはないだろうと連れ立って、ホテルを出る。少し先に車を止めてあるらしい。
「あれ、あの車は」
「――げ」
「おい、なんだその反応は」
「いやいや。じ、…松田さん、なんでここに?!」
「誰かさんを迎えに来たんだろう? ずいぶん帰りが遅いんでな」
見慣れたマツダのC X -5にもたれて、煙草を吸っていたのはこれまた見慣れた恋人である。スーツなところを見れば、仕事終わりにそのままここへ来てくれたことがわかる。うわあ、スマホの電源入れておけばよかった。
「じゃあ、俺たちはここで」
「あっ、ちょっと」
「ほらね、松田刑事、心配してたみたいだよ」
「年上からかって楽しいか?」
名探偵、元の姿に戻った時には覚えておきなさい。思春期だろうがお構いなしにからかってやる。願わくば、君たちに幸せな結末があるように。