原作69巻・アニメ608話〜609話「裏切りのホワイトデー」より

「パーティのお手伝い、ですか?」
『ああ。その日、別の大広間でもパーティ入っててさ。全然人手足らないのよ』
「なるほど。ちなみに日程と場所は、」
『3月14日、杯戸シティホテル。確かお前米花町だったよな。遠くないだろ?』
「まあいいですよ。私でよければ」
『ありがとう!助かるよ、また連絡する』

――と、まあ。専門学校時代の先輩にヘルプを受けたのが大体3週間前のこと。パーティが始まる前の準備だけ助けてくれれば構わないということで、拘束時間も長くない上に派遣スタッフ扱いで報酬も弾んでくれると言うので、二つ返事でそれを受けた。
しかし、そんな上手いだけの話があるわけもないのだ。

迎えた当日。いざ会場に着いて、準備まではよかった。周りも派遣の方が多かったこともあって悪目立ちすることもなく、スムーズに仕事ができた。あらかた準備を終えたところで、表を見てきてほしいと頼まれ、パーティ会場へ行けば煌びやかな格好の紳士淑女に溢れている。料理の方は、まだ全然足りてそうだ。問題なし。

「ではここで、今回のCMの主役の一人。名探偵・毛利小五郎様にご挨拶を」
「は?」

今、もしかして毛利小五郎って言った?

嘘だろうと思って壇上に目を向ければ、そこには見慣れた毛利さんの姿が。確かに言われてみればこの会社の新作チョコ、沖野ヨーコちゃんと毛利さんがC Mコラボしたとかで話題になっていた。

一気に寒気がやってくる。否、しかし、毛利さんがいるだけで何か起きると決めつけるのは早い。これはただのパーティだし、私はまだあの死神少年の姿を見ていない。早めに仕事を上がれば大丈夫なはずだ。多分、きっと。……絶対。

“うわわああああああああ”
ガタンッ

「ん?」

嘘であってほしかった。最初に誰もがそう信じたように。



「あれれ、名前さん! こんなところで何してるの?」
「名探偵……」
名前さんじゃないですか、こんばんは」
「こんばんは、蘭ちゃん」

殺されたのは、ウスイ製菓の社長。最初はウスイ社長恒例の寸劇かと思われたが、本当に死んでしまっていたらしい。そうともなれば会場は騒然である。人一人が目の前で死ぬなんて、人生で一度あるかどうかの出来事だ。
――彼、江戸川コナンくんにさえ関わらなければ。

「先輩に言われてパーティの料理作りに来たんだけど、」
「そうだったんですか。まさかこんなことになるなんて」
「本当だね」

言葉の割には、二人はいつもとあまり変わらない様子だ。私は先ほどから頭痛が止まらない。なんでこんなことになってしまったのかと悔いたところで、私にこの事件を予知して回避することはできなかったし、全てはこの小さな死神君と同席した時点で詰みだ。勝ち目はない。

「ねえ、名前さん。お仕事してたって言ってたけど、さっきのおじさんの叫び声って聞いてた?」
「えっ、うん。聞いていたけど」
「そう、――そうだよね」

今、私は何を試されたのか。怖くって聞けやしない。
ただ、当の本人はというと、到底小学1年生には見えない不敵な笑みを浮かべている。こんな顔をしているとこを見て、どうして周りの誰も「この子は本当は高校生じゃないのか?」と思わないのか不思議だ。否、私も彼の真実を知らなければ絶対に思わないけど。でも、とんだ天才だァ!くらいは思ってもいい。だって、どっちにしろ天才だから。

「あっ、警察の方来ましたね」
「本当だ。目暮警部かなあ」
「警察、といえば……」

サングラス、煙草。爆弾。おまけに今日は3月14日、ホワイトデーだ。
頭痛が増してきた。