爆発音、銃声、ライフルの発砲音。どれもこれも心臓に悪いし、怖いし、死を感じるし、できれば一生聞きたくないと思っているのに、なんで割と短めのスパンで聞く羽目になっているのか。

 事件は解決したと、バッチリ名探偵が眠りの小五郎を決めた後、これで一件落着かと思いきや、あの怪しいおじさん二人がライフル振り回し始めて泣きたくなった。
 園子ちゃんに蘭ちゃん刺せって言い出したりして、もう一生の終わりかと思った。真面目に。



「ライフルの弾を避けたァ?」
「うん、しかも割と至近距離」

これくらいと顔を近づけてみたら、不機嫌そうな顔をされてしまった。約束の再来週末。宣言通り、泊まりに来た陣平さんに、事件の顛末を語っているところ。

 一巻の終わり、と思ったところで必ず救世主がやってくる漫画なので、本当に人類最強の男が愛しの人を助けにやってきて驚いた。京極真。とうとう本物に会えた~なんて感動は、目の前の発砲音に見事にかき消されたわけだけど。

 かの有名なライフル避けを目の当たりにし、恐ろしいやら感動やらで、心臓が痛かった。これも真面目に。

「京極さんって、園子ちゃんの彼氏?で、空手の達人なんだってさ」

すごいよね、と言いながらハンバーグをパクリ。今夜の日のためにしっかり煮込んだハンバーグは、店に出さないのが惜しいくらいだ。

 ぶり返してきた京極さんへの感動を語る私をよそに、手を止めて真剣な顔の陣平さん。やってみたら何とかかんとか。あんまり突っ込みたくない独り言を呟いている。

「ハンバーグ美味しい?」
「ああ 美味い」
「お腹どう? 別に明日でもいいけど」
「もらう」
「……やっぱり分かってたか」

冷蔵庫から取り出したかわいらしい箱。中に入っているのもかわいらしいチョコレート。そう、あの悪夢の山荘で作ったものだ。

 そして、この男。やっぱり今日がバレンタインデーと気づいていた。だからわざわざ前もって、泊まりに来るだなんて、なかなか可愛いことをする。

「これ、恋が叶うチョコなんだってさ」
「へえ」
「どうぞ ハッピーバレンタイン」
「サンキュ」

いつの間にやらハンバーグを完食していた陣平さんは、包みを解いてチョコを一齧り。甘いですって顔、面白い。

「どうよ」
「美味い 甘い 甘い」
「言うと思った」

残しておいたら、私食べるよと言えば、いや食うと即座に返されて、照れ笑い。毎年のこととは言え、松田陣平に甘いものを胸焼けするくらい食べさせることができるのは、バレンタインデーなんて甘ったるいイベントのおかげ。感謝。

「私の恋、叶えてね」
「もう叶えてると思ってたが」
「まだまだよ」

私は陣平さんと一緒におじいさんとおばあさんになりたいのだ。シワシワの手を重ねて、随分長く一緒にいたねと思い出を数えたい。だから、まだだ。

彼が私を好きで、私が彼を好きで。それが当たり前になった今、もっともっとと、欲張ることを許してほしい。

「――ってわけだから、チョコ食べて長生きしてよ」

毎年、甘い甘いチョコにありったけの心を溶かして詰めるから。

「……アンタもな」
「私は大丈夫だよ、陣平さんが守ってくれるから」

陣平さんがじっと私の目を見る。ふうと吐き出した息。そうだなと言いながら、笑った彼を思い、思われ。恋人たちの一日が過ぎてゆく。

「じゃあライフルでも避けるようにするか」
「そこまでしなくていいと思う」

いや、本当、真面目に。

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