ピークも過ぎ、店に一人残ったおじさんと楽しくおしゃべりをしていた。今日は奥さんがお友達とご旅行で一人留守番だそうだ。寂しいだなんだと零すので、お酒の力を借りずに言わなくちゃと笑ってみる。「いやぁ、恥ずかしくてね」う~ん、非常によく分かります。その気持ち。言いたいことって言える時は後回しにしちゃうんだよね。いつ言えなくなるかも分からないのに。
「名前ちゃんは好い人いるのかい」
「好い人って、古いですよ」
「その反応はいるんだね?いやぁ、名前ちゃん母ちゃん譲りの別嬪だから、さぞよい男なんだろうよ」
「本当に、私には勿体ないくらいのイケメンで、」
「おっ惚気か~いいねぇ若くて」
あっははと笑いながら、冗談ですよと残った皿を片付ける。そろそろ帰るよと言うおじさんの会計を済ませたと同時に、カランカランとドアベルが鳴る。あれ、ラストオーダーも終わって、closeに変えたはずなのに。おじさんとふたり振り返ると、やっほーと顔を出したのは萩原さんだった。松田さんの爆弾事件の夜以来だから、もう3ヶ月ぶりになる。お久しぶりですね、と声を掛けようとしたら、続々と入ってきた面々を見て「ひゃっ!?」とおかしな声が出た。不可抗力だコレは。
「こりゃあ……男前集めたねぇ」
おじさんのつぶやきに本当に、と返すのが精一杯だった。
おじさんを見送り、ボードを仕舞って、冷静に考える。いや冷静に考えなくてもあれは警察学校組ってやつじゃないのか。松田さん、そう言えば今度ダチと飲むって言ってた。松田さんがダチって珍しいなあと思ったのだ。でもそれが彼等のことだなんて、こちらに転生して数十年、もうすっかり思い付きもしなかった。
「……名前ちゃん、大丈夫?」
「わっ…!──あ、全然!すいません」
「急に来ちゃってごめんね、お店もう終わりの時間でしょ」
「良いんです良いんです」
いらっしゃいませ~と何とか営業スマイルで、とりあえずお茶を出す。私の店のテーブルのはずなのに、こんなにイケメンに囲まれてると別世界みたいで現実味がない。降谷さんは雰囲気固いのが余計にイケメンを引き立てている。彫刻みたい。同じ人間か?私、今日ライフ使い果たして死ぬのかな。すごいものを見てる気がする。
「おせーんだからさっさと帰れよお前ら」
「お?ヤキモチか、松田」
「伊達お前本当に黙れ」
「いつも松田さんもこのくらいの時間に来ますから、いいですよ、ゆっくりして行ってください」
「……いつもこの時間に来るのか」
あ、降谷さんが余計なとこ拾った。
「ラブラブぅ」
萩原さんにからかわれ、恨めしそうにこちらを見る松田さんに、合掌。ごめんて。
飲んできたなら軽くシメますか、という私の問いに賛成を頂いたので、うどんを提供した。名前ちゃんもコッチと萩原さんに松田さんと降谷さんの間に、座らせられた時はどうなることかと思ったけど、現状、息ができなくて死にかけてる。だって、降谷さんお酒臭いはずなのに、めちゃくちゃ爽やかな匂いする、なんでや。正直それぞれ名前を言って下さったが、ほぼ頭に残ってない。私が知識なしだったら詰んでた。
「このうどんうめぇ」
「良かった…」
「出汁には何を?」
「こらゼロ」
「企業秘密ってことで、」
「それは残念だ」
あの降谷零の口に私のうどんが収まるなど、到底考えたこともなかった。卒倒しそうな気持ちを、松田さんを見て抑える。この人もたいがいイケメン過ぎるな駄目だ。彼氏とか今でも信じられない。
「……何考えてんだよ」
「えっ?」
「さっきからぼーっとしてる」
「そ、そうかな」
「ん」
ごちそうさま、ペロリと食べ尽くした松田陣平が私を逃さないと目で追い詰める。
「……みんなイケメンだなあ、って」
「は?」
「おっ、名前ちゃん誰の顔がタイプ?」
私の正直な告白に不機嫌そうな松田さんと、楽しそうな萩原さん。「諸伏さん」と即答すると、松田さんに殺されそうな勢いで「ああ”?」と言われた。待って、まだシニタクナイヨ。
「そう来たか」
「意外だな、降谷が選ばれないとは」
「ゴメンなゼロ」
「俺は何も言ってない」
「名前ちゃんに選ばれました~」
ぶほっ。諸伏景光が私をちゃん付けで呼んだ!? 破壊力ハンパないって!!一人心の中でゴロンゴロン。堪らん。
「あーマジで早く帰れ」
「いや、もう終電ねーし」
「タクシーだろどうせ」
「……3階で良かったら空いてますけど、泊まっていきます?」
「マジ?」
「おい、」
「だって、松田さん泊まっていくつもりだったんじゃないの?」
はあ~~~とでっかくため息をついた松田さんが、そうだけど、と呟いた瞬間に他の4人が大笑いしたのが微笑ましすぎて全私が泣いた。
※この頃(原作3年前)には降谷さんもスコッチさんも組織に潜入しているので夢主に会って名前を教えるはずはありませんが、寂しいので、そこは見逃してください。信頼とお酒のなせる技です