※映画の面影だけある
※蘭ちゃんの仕事はぜんぶ奪う
※ガンガン松田さんが絡みます
※お付き合いしてます
悪い予感はいつも当たるもので、誘われた時点で断れば、その後に起こるよくないアレコレは回避できるのだろうと思う。でも思うだけでそうできた試しはないし、だから、と言うか。毎回なんだかんだ巻き込まれて、色んなところに首を突っ込んでは疫病神扱いされている。それは納得してないんだけどさ。だって。
「お〜名前ちゃん、久しぶり」
「萩原さんこんばんは」
「久しぶりってお前、先月も店来てただろうが」
「細けえなあ、陣平ちゃんは」
私が今、白鳥警部の妹さんの結婚を祝う会に来ている。何故かを言うまでもなく、元々招待されている陣平さんのパートナーとして、だ。正直白鳥さんと面識はほとんどないし、私は行かなくても、と思わないこともないが、まあ「アンタも行くだろ?」と言われたら「はい」と言わざるを得なかった。
だって、なんか嬉しそうだったし。
「にしても、“あの”陣平ちゃんがパーティにパートナーだってよ」
「ははは あんま揶揄ってやるなよ」
「見せてやりたかったね、あの2人にも」
「やめろ、笑われる」
「ちげぇねえ」
私のドレスと色を合わせたポケットチーフの陣平さんは、さっきから萩原さんと伊達さんの揶揄いの的である。実に可愛い。降谷さんと諸伏さんは生憎仕事で来れなかったらしい。あんまり人に顔を売っていい仕事でもないので仕方ない。
「陣平さん、ネクタイ」
「あ?」
「曲がってる。ちょっと待って、」
彼のネクタイを直すのも、なんか、随分慣れたもんだなと自分のことながら思っていると、真正面から生暖かい視線が飛んでくる。いつもの調子でやってしまったが、ここでは自重した方がよかったかも知れない。ごめん、陣平さん。
「おーおー、そうしてると本当に夫婦みたいだね」
「やめろって」
「松田よ、いいもんだぜ。結婚ってのは」
「名前だって。ねえ?」
「いや、まあ…… あははは」
結婚ねえ。まあ。うん。そろそろ。私たちだっていつまでも若くはないのだから。
恥ずかしそうな顔をする陣平さんの横顔を見上げながら、この人の隣にいる自分を思い描いてみる。きっとずっと幸せだろうなと思う。ずっと、そうであってほしいなとも。
「あ、陣平さん。ちょっとお手洗い行ってくるね」
「おー」
花咲く会話の輪から離れて一人お手洗いへ向かう。化粧直しもしなきゃなあと思いつつ、個室から出れば、珍しい人間とエンカウントした。佐藤刑事だ。
「あれ、名前さん」
「あ、こんばんは」
「今日は、松田くんと?」
「ええ。そうです。やっぱり佐藤刑事もいらしてたんですね」
「そう、ちょうどいい息抜きにね」
「ドレス良くお似合いです」
普段のビシッと決まったスーツ姿とは違い、可愛らしいドレス姿の佐藤刑事はお世辞抜きにお綺麗である。佐藤刑事を見るとどうしてもあの話を思い出してしまうからちょっと落ち着かない。松田陣平は、本来佐藤刑事の記憶の中に生きる人だった。あの話にだけ出てくるキャラクターで、それでもなぜか強烈に覚えていたのだけど。
「名前さんもね。松田くんったらまた惚れ直しちゃうんじゃないの」
「あははは そんな……って、あれ停電?」
「そうみたいね、ちょっと見てくるわ」
暗くなったトイレ。化粧台の下で光る懐中電灯。それを手に取った時、あれこの光景どこかで見たことあるなと何かが引っかかった。でも、その時にはもう遅い。私が手に取った懐中電灯に向かって「ダメよ」と叫んだ佐藤刑事の姿を最後に、私の記憶は途切れた。