並べられた怪我人たち。みんなドフラミンゴたちの軍勢だ。そうだ、こうしてマンシェリーさんや私に傷を治させて、どんどん戦っていく。そのためにあの人は、私をここで入れたのだ。
「ほら早く治すざます。別にどっちでも構わないざますよ」
「どうして私たちが」
「そんな生意気なこと言って、工場の仲間やトラファルガー・ローがどうなってもいいざますかァ!?」
ひどく怖がるマンシェリーさんを手の後ろに隠す。私だって、怖いけど。年齢だって体の大きさだって私の方が上なのだ。負けちゃダメだ。彼らに手を貸すような真似はできない。
「できません」
「悪い人を治すのはもう嫌れす!」
「黙るざます! 無理やりやらせてもいいんざますよ」
ジョーラの大きな手が私の頬を打つ。いけない、口の中を切った。ああ、もう。女の顔を打つなんてひどいなあ。今日は痛いことばっかりで嫌になる。痛いの、本当は嫌いなのに。
「……あなたたちの力にはなりません」
ジョーラの大きな手が、また迫ってくる。咄嗟に目を瞑ったその時、「見つけたれすよーーっ!」とまた可愛くも勇ましい声が響いた。
「レオ、こわかったよう……!」
「姫また重くなったれすね」
この可愛くて勇敢で、でもちょっと空気の読めない小人さんはレオさん。トンタッタ族の戦士だ。通りで強いわけである。なんだかすごい技で敵を一網打尽してレオさんのおかげで、私とマンシェリーさんは無事救われた。
「さあ、早く走って逃げましょう! 姫も名前さんも走れるれすね?」
「う、うん。私は大丈夫だけど」
「レオのおんぶじゃなきゃ逃げない」
「出たっ 姫の気まぐれ!」
ついさっきまでおばさんの張り手で死ぬかもという状況にあったのが、ものの数分でこの温度差。耳がキーンとしてきた。というかあれだよね。マンシェリーさん。気まぐれでもわがままでもなく、レオさんんこと好き、なのかな? 好きな子には甘えたいタイプ? 可愛いかよ。
「早く行くれすよ!」
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死に物狂いで走って王宮を脱出する。小さな手足ですばしっこいトンタッタ族の皆さんとは違い、私はただの運動不足の料理クルー。肺がちぎれそうなくらい痛い。さっき殴られたほっぺより痛い気がする。
「とりあえずここまで来れば安心れす」
「名前さん、無事れすか?」
「ぶ、じ……ではないけど、無事で、す」
膝に手をついて、肩で息をする。見苦しいことこの上ないが致し方ない。元々運動全般苦手なタチだ。まあ、そんなことはどうでもいい。王宮の外へ出てみると状況は……あまり思わしくないように見える。山のように迫り上がった王宮の周りで、何か飛んでる?
「あれってルフィくん?」
「知り合いなんですか?」
「うん、相手はドフラミンゴですよね?」
「そうれす! ルフィさんは今、僕たちのために戦ってくれているんれす」
じゃあ、ローさんは? あの中にいるの?
ここからじゃ、飛び回るふたつの影しか見えない。もし大きな怪我していたら? もしかして、なんて悪い方向にすぐ思考が飛ぼうとするのを、ブンブン頭を振って跳ね飛ばす。そんなこと考えてないで走れ。ここで立ってる場合じゃない。
「……すみません、私行きます」
「えっ!? どこへ行くんれすか?」
驚くレオさん。背中におぶわれたマンシェリーさんとぱっちり目が合う。可愛いなあ。いいね、レオさんの背中。とっても嬉しそうな姿を見て、私まで嬉しくなってくる。ずっと一緒にいてあげてほしいな。マンシェリーさんの力を狙う人は、きっとドフラミンゴだけじゃないだろうから。
「好きな人が、いるんです」
服の内側。一番奥に隠して彼のビブルカードが熱くなる。私は彼のいる方へ行けばいい。
「邪魔にならない程度に近づいておこうかと」