バイトのない平日。最近人気の俳優が出てるテレビなんか見ながらソファでゴロゴロしていたら、本当にビービーと携帯が鳴ったので驚いた。
「もしもし?」
『もしもし』
ちょっと眠そうな流川の声。電話のかけ方を知っていたのなら、アメリカから時差なんて気にせずに電話を鳴らしてくれたら、わたしの今年の夏は大きく違うものになっていたはずだ。この野郎。
「部活は終わったの?」
『うす』
「お疲れさま、今帰りか」
『……先輩の家の近く』
「ふぁっ!?」
飛び起きて、近くのパーカーを手に取る。何してんだって言ったら会いたくてと返される。わたしは誰と話してるんだと疑いたくなったが、そんなことを言われて、そっかバイバイ~って言える女がいたら、ぜひわたしの目の前に連れてきてほしい。
「どこにいるか詳しく」
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夜はもう随分と冷える。大きめのジャージ、ポケットに手を突っ込んで、ガードレールに腰かける。嫌味なくらい絵になる男だった。わたしが名前を呼べば、ちょっとだけ嬉しそうな顔をする。こんなことで満足するなんて、わたしもとんだ甘ちゃんである。
「もう、いきなりだなあ」
「すんません」
「いや、いいけど。……やっぱりよくないけど」
こんな格好だし。流川に対して、そう思うのは、何度目か。またすずちゃんに怒られる。
「何してた?」
「テレビ見てたよ」
「面白かった?」
「うん、そこそこ」
精一杯背を伸ばし、流川の髪についた糸くずを払う。
「流川は、部活どうだった?」
「……まだまだ」
「そっかあ」
パッと触れて、ハッとして、ゆっくりと繋がれる右手。女の子の手を繋ぐなんて、流川も出来たのかと思いながら、繋がった右手を見て笑ったら、流川も少しだけ、笑ってくれた。