日本の寿司の起源をご存知だろうか。なんとその歴史は1,000年以上も前に遡る。奈良時代にはその存在が確認されているという説もあり、あの奈良の大仏が出来たなんだと騒いでる間にも、日本人は寿司を作り上げていたのである。本来は効率的な魚と米の保存方法の一つであった寿司だが、その寿司を世界に誇る日本文化の代表にまで育てあげた功績は、日本人特有の繊細な味覚にあると言ってよい。というか、そんなことは心の底からどうでもよかった。私の目の前にある寿司。回っていないタイプ。職人さんがひとつひとつ握って寿司げたに持ってくれるやつだ。普段スーパーで買って食べている寿司は寿司ではなかったのではと疑いたくなるほど美味しい。信じたくない。

「……何を怒ってんの?」

先日、滑らかに取り付けられた寿司の約束を果たすため、私たちはいつものしがない居酒屋から、電車で20分の高級寿司にジャンプアップした。比例して私の財布の中身も吹っ飛ぶ訳だが、どうしても行くと聞かなかった流川を抑え込めただけまだマシである。あの底無し胃袋に適したレストランでないことだけは確かだ。

「宗ちゃん、本当は知っていたんでしょ」

流川の1ヶ月強化合宿のこと。サーモンを口に運びながら、訊ねる。これがサーモンならばやっぱり普段食べているサーモンはただの淡水魚だと思わざるを得ない。なんのことやら」じゃなくて、この男、確信犯に違いない。同じ大学バスケをやるものとして知らないはずがない。聞けば海南大の下級生を参加していたと言うし、ほとほと底意地の悪い男だ。

「だって名前さん、俺が一昨年行ったの忘れてたでしょ」
「あ」
「本当に俺の話聞いてないよね、いいけど」

お寿司美味しいし、と。たしかに一ヶ月ほどどこか行くみたいな話をしていたと言われればしていたけど、1ヶ月に1回も会わないような仲だから気にしたことない。私が悪いの?

「その腹いせ?」
「そんな子どもみたいなことしない」

じゃあなんだって私は、あんな馬鹿みたいに酒を飲んで流川のことを忘れようとして、挙句にこんなべらぼうに高い寿司を奢らされているというのだ。

「本当に忘れてただけだよ」

この悪魔め。人の金で食べる寿司はさぞ美味かろう