「夏休みの1ヶ月だけぇ?」
バスケ留学とはいえ、本格的にアメリカに腰を据えるのはもう少し先だから、とそんなことわたし聞いてない。
「店長には? 言った?」
「言ったけど、聞いてなさそうでした」
「あのポンコツ……」
いっぺん◯ね!
そしてその一ヶ月の国際練習を終え、帰国したらしい流川は、空港から荷物を置いてそのまま来たらしい。体力おばけ過ぎてまた声が出ない。たった3連勤でヒイヒイ言ってるわたしは老婆か何かか。違うぞ、まだ21歳だ。
「そんなことなら、もっとゆっくりしてからでも」
「帰ったら、返事、聞きに行くって言ったっす」
「そうだけど、」
わたしの遥か上にある綺麗な瞳が、それで返事は、と催促してくる。あんまりジロジロ見ないでくれないだろうか。流川の前で泣いたことなど思い出したくもない。「先輩」流川の声、顔、匂い。話してると首が疲れること。忘れていたようで、姿を隠していただけの記憶が、ちゃんとわたしの背中を押す。失って、初めて気づくものが、恋なのだとしたら、わたしのこれは、きっと、恋以外の何物でもない。
「……会いたかったよ」
「俺も」
「うん、だから、つまり、…わたしも、好きかも」
すずちゃんがわたしに投げつけた素直さを、そのまま目の前の大男にぶつけた。目に見えてホクホク顔の流川に、ちょっと可愛さを感じたあたり、もう末期。後には引けぬ。
「今度から、どっか行くときは、いつ帰るのか教えてね」
そしたらもう泣かないからさ。ちゃあんと待っていてあげるから。なんなら空港まで迎えに行くよ。
「約束する」
「じゃあいいよ」
この夏のこと、許してあげる。流川は、わたしの肩に手をかけて、首を傾げた。まつげの触れ合いそうな距離で見ると、本当に綺麗な顔をした男だ。こんな色男がわたしのこと好きだなんて。
「キス、していい?」
「え、だめ」
「なんで」
「今汗とか、汚いし」
「無理」
話聞けって。言葉も思いも飲み込むような、不器用なキスが、二人交わした初めてのキス。
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