夏が暑いのは当たり前のはずだが、近年、その暑さに磨きがかかっている。磨きをかけているのは、我ら人間なわけだけど。まあ、この暑さは異常だ。外に一歩も出る気が湧かない。バイトもない学校もない。こんな日は自分の好きなことを目一杯やるにはうってつけ。にも関わらず、何もする気になれず、ソファの上から動くのも億劫だとは、地球温暖化は恐ろしい。手の届く範囲にあるもの。テレビのリモコン、麦茶、3日前に買った女性誌。これだけで1日生きろと言われたら生きられる。
つまらない批判ばかりを繰り返すワイドショーにはうんざり。適当にチャンネルを変えると、N△Kで、夏の甲子園がやっていた。今年の優勝候補は、どこだと言っていたか、とんと忘れた。興味もない。窓の外、テレビの中。画面上の方が暑く見えるのは一体なんて現象なのだろう。マウンドの青年が、腕で汗を拭う。ゆらゆらと揺れる輪郭が、現場の熱気を伝えてくれる。
野球なんてルールも知らない。ホームベースを踏んだら一点。そんな単純なルールのくせに、こうも多くの人が熱中する理由は何なのか。分からないからもうしばらく見ることにした。
「あんた最近変わったわね」
ひょっこり、顔を出した母親が、ソファでごろ寝しながら甲子園を見るわたしに言った。そうか?
「昔はスポーツなんてまるで興味なかったのに」
「他に見るものないだけだよ」
「あら、でもこの前までバスケの試合行ってたじゃない」
……母親には敵わない。そうかもね、と適当な返事をしたら、パピコ半分要るか訊かれたので、要ると答えて受け取った。パピコと雪見だいふくが二つセットなのは好きな人と半分こするため、と聞いてかつて絶望したわたしであるが、夏のパピコは底なしに美味い。
「かっこいい男の子でもいたの?」
母の心は若い。多分わたしよりも社会に夢を見ている。
「……そうかもね」
イケメンをイケメンじゃないと否定することはわたしの流儀に反する。しかし、こうも暑い日に彼を思い出すと、何か、じっとりと、心臓の周りに何か纏わりつくような、いやな気持ちになる。