夏休み一発目の木曜日。ドキドキしてた。ドアチャイムを鳴らして店の中。まだ流石にお客さんもいない時間だ。先に着いていたらしいすずちゃんが、おはようございますって挨拶して、私もそれに返した。ロッカーに荷物をぶち込んで、着替えて、ホールに戻っても流川はまだ来てない。分かってたけど、なんか足りない。
「あれ、流川さんってもう行っちゃったんですか」
「らしいね」
店長がグラスを磨きながら、連絡あったと言う。私に来たメールは挨拶のつもりだったんだろうな。何も言えないまんま、何も変わらないまんま、彼は遠い異国の地へと行ってしまった。彼は、流川は、バスケットが大好きだろうから。
「え~、先輩なんか言われました?」
「うん、メール、もらったよ」
「私には何にもなしなのにぃ」
行っちゃった、行ってしまった。流川の働きなんて、すずちゃんに比べたら3分の1くらいのものだけど、それでも、常連になったおばちゃんたちは悲しむだろうし、店長だって寂しいだろう。私は、うん、まあ。そんな感じ。〈差出人:流川楓〉
〈行ってくる。帰って来たら返事もらいにいきます〉
帰って来たら、って。いつのことよ。行くことも教えてくれるなら、それだって教えてくれなきゃ。流川は言葉不足だ、ってあんなに言ったのに。
back