こんな風に、彼に対してなにかを思う権利は、私には無い。彼女でもなし、ただのバイト仲間だ。それなのに、一晩経っても晴れないこのモヤモヤの正体はなんだろう。
昨日、流川のお友達がお店に来た。女の子と男の子。最初は流川にも友達いるんだって思って安心したのに、その後、たまたま流川と女の子ひとりが話してるのを聞いちゃって。女の子は、すごくすごく可愛くて、見ているこっちが妬いてしまうほどいじらしい。流川と話すときの照れた態度、流川を追いかける目、(ああ、このこは流川が好きなんだ)ってすぐに分かった。流川も満更でもなさそうに話してて、そりゃああんな可愛い子に、あんな態度を向けられて嬉しくない男はいないだろう。女の私ですら可愛いなって思うのに。
「先輩、昨日から変ですよ」
「……そう?」
何かあったんですかとすずちゃんは今日も可愛い。そうだよ、すずちゃんだって、あの子だって、いいや大学にだって沢山。可愛い女の子なんてごまんといる。流川はカッコイイし背も高い。オマケにバスケットだってプロ注目だと言うのだから、女の子がほっとくはずもないし、流川だって選び放題。今は私のことが好きだとかなんとか言ったって、すぐに目移りしちゃうかも。目移りって変か、私の彼氏でもないわけだし。
「流川さんですか」
「違うよ」
「昨日のグループにいた女の子、可愛かったですもんね」
「違うってば」
ならいいんですけど。──すずちゃんは笑って、お客さんの方に行ってしまった。違うよ、だって私は流川のこと、
▲「先輩」
「うおっ」
ひとり学食で黙々とカレーライスを食べていたら、目の前には流川。眉間にしわ寄せて、山盛りのカレーライスをトレイに乗せてる。にしてもすごい量だなあ。「……どうしたの?」月曜からそんな勢いで。大学内ですれ違ってもペッコりするだけだったじゃん。
「この前のやつ、なんでもねーから」
「へ」
「先輩が思うような、そういんじゃねーっす」
この前のやつ。とは。「木曜に来た」あ、あの流川の友達。なんでもねーってなんでそんなことわざわざ。それに一晩経ってもモヤモヤしたけど、流石に週が変われば気持ちもスッキリしていたよ。忘れてたもん。
「あいつは今、どあほうと付き合ってるし」
ちょっと失礼なこと言ってるね?
「うん、でも、なんでわざわざ」
確かに、ちょっぴりね、引っかかってはいたんだ。色々ぐちゃぐちゃ考えたりもしたけど。流川には言ってないのに。
「先輩には勘違いされたくねーから」
じゃあ。ってガツガツとカレーライスを食べ始める。あと20分しかお昼休み残ってないよ。まあ待っててあげるけど。