忙しい木曜日。とは言え、20:00を過ぎれば客も落ち着いてきて、やることもさほどなくぼうっと立ってると、チャリンチャリンとドアチャイムが鳴り、あ、客だと思って顔を上げる前に名前を呼ばれた。
「……む」
あのどあほうの連れにキャプテンの妹とその連れ。揃いも揃ってニタニタと。「うわっ、マジでバイトしてんじゃん」マジでやらなくていいバイトってなんだよ。
「……何名様ですか」
「7人、入れるか?」
「どーぞ」
水戸が入れるってよ、と声をかければまた嬉しそうな声が湧き、そんなに俺の働いてる姿を揶揄うのは楽しいかと面白くない。水戸が今日は花道来れねぇんだよと言うが、来られたら困る。所構わず喧嘩を売ってくるどあほうを見逃してやるほど俺は大人じゃない。こんなとこで喧嘩したら流石にクビ。今はまだやめらんねぇんだ。
「……ごゆっくり」
「あれ、友達?」
「む……まあ、」
友達と呼ぶほどに親しいかと聞かれれば微妙で、それでも友達じゃあないと言い切れるほど浅い関係でもない。あいつら毎回バスケット部の応援来てたし。なんなら3年の時クラス同じだったし。
「そっかあ」と何故か先輩は嬉しそうで、多方、俺に友達はいねぇと思ってたとかそんなとこだろう。ちょっと面倒だと誰にもバレねぇように小さくため息をつく。後ろで話を聞いてたらしい店長もまたニコニコしながら、これサービスだとデカい器の唐揚げを俺に渡した。
「あ、流川くん」
赤木の妹。晴子とか言ったっけ。
「ごめんね、……その、突然みんなで来ちゃって」
モジモジと、照れくさそうに話す赤木は、どこからどう見てもキャプテンと似てない。水戸たちに誘われて、私も少し見てみたくて、と何やら言い訳らしきことを言ってるが、俺、怒ってねー。店に来るのは自由だし、客が増えたら店長が喜ぶ。
「別に」
「うん、……なんか新鮮で、いいね」
黒Tエプロンを見て、笑った赤木は、もういつかのように悲しそうな顔はしなかった。ああ、それも全部あのどあほうのせいなのかと思えば、気持ちひとつで大したもんだと感心したくなる。
「じゃあ私、戻るね」
「……赤木」
「どうかした?」
「……来てくれてさんきゅって、あいつらにも言っとけ」
「うん……!仕事頑張って」
俺も少し変わった、と、少し思った。