ようやく梅雨も終わりを迎え、カラッと陽射しの厳しい夏が来た。夏休みを前に、あと数週間後にはテストが待っている。日頃楽をする大学生にとっては最大の難所である。かく言う私も日頃授業は話半分、ゼミだけは真面目にやってます系大学生なので試験はかなり危うい。今から準備をしなくては。

今日のバイトは暇だった。木曜日は比較的混みやすい曜日であるものの、今日はふたつとなりのビルに入ってる居酒屋が3周年の感謝祭でめちゃくちゃ安くなっていたから、みんなそっちに流れたんだろう。私だって感謝祭で安いビールが飲みたいやい。

「流川、テストはどう?」
「……む?」
「テスト」
「…失念」
「オーマイ」

私が頭を抱えてる。流川は涼しい顔してる。どうして?失念って、あんなにみんなテストやばいなあとか出席足らないなあとか言っているのに忘れることなんてあるだろうか。流川楓ならありそうである。毎日バスケ漬けの体育会なら仕方ないかと思わないこともない。

「大丈夫なの?」
「ダメそうっす」
「ダメじゃん」

授業の話を小声でしつつ、もちろん店内に目は配る。私のことをじーっと見ている流川は多分、目を配っていない。ダメじゃん。

「落単したら部活に支障あるかもよ」
「落単ってなんすか」
「単位落とすこと」
「ああ……うす」

私が笑うと、流川も少し笑った。向こう側のテーブルで大学生らしき3人組が一斉に頬を染めた。罪な男。まあ格好良いもんね。分かるなあその気持ちと思っている間も、流川は私ばっかり見る。「?」はあ、とため息をついた。小さく首を傾げる姿もカッコイイのだ。

「見過ぎ」

ペチリと彼の額を叩く。奥の女子大生達の顔はもう激辛料理を食べたのかと疑うほどに真っ赤である。生憎うちの店にそんなメニューはないのだけど。

「先輩の顔、見てたいから」
「なっ」

タイミングよく呼んでくれたお客さんの方へ早歩き。もう振り返らない振り返れない。「あれ、お姉さん顔赤くない?」そんなこと、ないですとも。