『ゴールにボールを入れたら2点入る。遠いところからなら3点』

結局あの日、宗ちゃんが教えてくれたのはそれだけ。あの男は心底私を馬鹿にしてるのか、それとも私を本当に馬鹿だと思っているのか。流石にそのくらいのルールは知ってる。私だって一応義務教育+高校3年間を過ごしてきたのだ、バスケットはやったことある。私が聞きたかったのはそういう大雑把なやつじゃなくて、もっとこう…こういうことは反則なんですよーみたいなやつ。そんなの見なきゃ説明出来ない、と言われ納得したのだが。宗ちゃんが私よりも賢い青年であることは間違いない。

そして今、私は実際にバスケットを初めて生で観戦している。熱気が凄い。

「いやぁ、やっぱり天才だ」

隣に座る店長は「おお!神よ!」とでも叫びだしそうな勢いで、プレーを見つめている。視線の先には流川。11を背負った彼は右へ左へ、実に華麗な動きでボールを操っている。…と、偉そうに語ってみて、正直、私にはなんのこっちゃ分からないというのが本音。ボールをゴールに入れたら2点入る。遠くからなら3点。──そんなの知ってるよ、と言った先日の言葉が頭にリフレインする。そんなこと知ってた、でもそれですら追うのでやっと。動きが速すぎて何してるのかよく分からない。流川ってあんなハキハキ動けるんだなあって、そんな馬鹿みたいな感想しか浮かばないのだ。

「どう名前ちゃん、楽しんでる?」
「それなりに」

それなりに。熱気や、華麗なプレー。どれだけすごいか分からなくても、シンプルにダンクとか決めてくれたら凄いなって思う。スポーツ観戦はあんまりしたことがないから、あくまでそれなりに。楽しんでる。「流川はすごいだろう」と店長は何故か誇らしげで、そうですねって私の苦笑いも目に入ってないみたいだ。

我が大学のバスケット部は相当実績のある名門らしく、そんなチームで1年生で背番号を取った流川楓は高校時代から注目されていたスタープレーヤー。聞いてもないのに湯水のように湧き出る情報を拾い切れない。ただ何がすごいのかも分からず手を叩き、どっちが流川の攻めるゴールなのかあやふやなまま〈ディーフェンス〉と声を上げる。私は考えるのが面倒になって、すべて投げ出した。もう流川だけを追いかける。彼は誰より速く、そして力強い選手だったよう思う。気が付いたらホイッスルが鳴り、チームはダブルスコアの大勝に終わった。