雨が降るキャンパス。4限終わりの人の少なさは異常だ。私は赤い傘をさして、歩いていた。大きな掲示板。破れたポスターって貼っておく意味あるのか。その中で、ポツンとあったのはバスケット部のビラだった。BASKETBALLの文字、下には春季リーグ戦とある。だから最近流川が忙しそうだったんだなと納得した。真ん中にはキャプテンらしき大きな男の人。端から2番目のこれは、まさしく流川じゃないか。ボール持たされてる、面倒くさいって顔に書いてあるこれじゃあダメだろう。流川がこういうの真面目にやるキャラだとは思えないけど、にしたってもう少しキリッとした顔すればいいのにな。顔は本当に本当にカッコイイんだから。
「先輩」
くるっと振り返ると、傘から雨粒が飛んだ。ごめん、流川。
「よーっす」
流川は大きな黒い傘をさしてた。前にも見たやつだ。流川は私が何を見ていたかはあんまり興味がないらしく、それでも私を置いて行く気もないらしくぼーっとしてた。「今日は休みなんだっけ」「うす」流川は体育館の方へ、私は駅の方へ。並んで歩き出す。勝ってるの?と聞けば頷かれる。並んで歩いていると、流川の顔が見えづらいので出来れば口に出してほしい。まあ、勝ってるならよかった。何をどう勝てばいいのかは知らん。
「じゃあ部活頑張れ」
「来週は行けます」
うん、と頷いてバイバイする。やっぱり本物の方がずうっとカッコイイなと思った。
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「今日流川さんお休みなんですね」
部活だってねぇ。そんなだらけた声が出るほど、お店は暇だった。カウンターに肘をついて、すずちゃんはつまらなそうな顔をする。厨房の店長が今は春季リーグの最中だろう、と言うが私たちにはなんのこっちゃ分からない。聞いてもないのに語り出す店長は少々だるい。流川は神奈川バスケットの未来だとか日本の宝だとか、贔屓目を抜いても本当に凄い選手なんだそうな。
「アンダーで日本代表になるくらいだ」
「へえ」
すごすぎて別世界感がしてきた。すずちゃんはすっかり関心もやる気も失って、紙ナプキンの補充に。こういう時、ひっそりと消えるのが本当に上手な子なのだ。店長はそんなことには気付かず、同じ大学でしょう、とか結構仲良いのに、とか。言われてることは全て正しいが、バスケットをとんと知らない私が流川とバスケットの話をするのも逆に失礼というものだ。流川は自分からは多くを語らない男であるので、必然的に、中身のないくだらない会話ばかりする羽目になる。
「よし、今度流川の応援行くぞ、みんなで」
「げ」
誰が押したか知らないやる気スイッチ入った。すずちゃんがあからさまにため息をついたのを私は見逃してない。それでも、少しだけ、彼がバスケットをするところを見てみたいと思った私のことは、どうか見逃して。