怪しげに光るゲートを潜ると、そこにはもう既にロンドンの風景が広がっている。空気感も匂いも、先ほどとは全く異質だ。恐ろしいゲームを開発したものである。

「これが、オールド・タイム・ロンドン……」
「まさに霧の都って感じだな」

歩美ちゃんたちが匂いについて指摘すると、鼻高々にロンドンの霧の正体について解説する名探偵。小学1年生がスモッグなんて言葉知ってる?普通。見てよ、陣平さんの顔。めちゃくちゃ怪しんでるじゃん。何度も言うが、本当に隠れる気ある?

「あのね、名探偵はものすごい博識で——」

私がとりあえず庇っておくかと口を開いたとき、どこからか女性の叫び声。慣れる間もなく、早速事件開始のようだ。名探偵と陣平さんはそれがジャックザリッパーの犯行だと気づいてすぐに走り出す。別に驚かない。置いてけぼりはいつものことだ。

「私たちも行こう。みんなはぐれないでね」

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当たり前だがそう簡単に犯人を捕まえられることもなく、私たちは合流したのち橋の上へと移動していた。一縷の希望かと思われた博士との通信も、ノアズアークにあえなく遮られ、橋は落とされた後である。

「おい、大丈夫か」
「……これくらいなら何とか」

とは言ったが、私がたまたま端に近い方にいたから良かったものの、ど真ん中にいたら今頃川にドボンしていた自信はある。こんな調子でどこまで行けるか先行き不安しかない。現実世界でもトロいのに、ゲームの中でもトロいなんてあんまりだ。

「おい坊主。このあとどうする」
「さっき博士が言ってたお助けキャラを探しに行くつもりだよ」
「ロンドンでお助けキャラって言えば、」

ここは、現実と創作を混ぜた世界になっている。となれば、目指す先は一つ。

「そう。いるはずだよ。あのシャーロック=ホームズがね」

生まれ変わってコナンの世界にやって来て、今度はゲームの中でホームズ探し。こんなことになるとは、夢にも思わなかったや。人生何があるかなんて誰にも分からない。ああ、怖さ一周してワクワクしてきた。がんばろ。あんまり早くリタイアしたら陣平さんに怒られそうだし。

「アンタ、その靴で歩けるか?」
「うん大丈夫。最悪裸足で逃げるし」
「変に肝だけ据わりやがって」
「人生経験だけは豊富だからね」

まるで笑えないんだけど。ここまで来たら開き直るしかあるまい。爆弾だって解体したし、爆風で空も飛んだ。爆撃されながら観覧車の中も走ったし、異国の地に攫われたことだってある。怖いものは何を経験しても怖いけど、心はいくぶんか頑丈になったつもり。

「それに、」
「ん?」
「今回は陣平さんと一緒だからまだマシかな」

あなたがいれば、きっとまだ強くなれると思うんだ。