翌日、映画もいよいよ大詰めを迎える。

 王宮の庭、池のほとりに集められた関係者全員の前で銭形警部が話し出す。この先の展開は知っている。小五郎さんを狙った名探偵の麻酔針は外れて銭形警部へ。仕方なく推理を始めたけれど、化け物並みの体力で早々に目を覚ましてしまった銭形警部の代わりに、小五郎さんが事件の真相を話し始める。

「ほんと、すごいわ」
「――?」
「ん? あ、小五郎さんの推理の話ね」
「ああ」

 それはもちろん、小五郎さんに変装したルパンとそれに気づいた名探偵による推理ショーだ。初めて生で見たけど、どっからどう見ても小五郎さんだ。蘭ちゃんだって気づいていない。声も顔もまるっきり本物でとにかく疑いようがない。みんな騙されるはずである。

 兎にも角にも、一連の事件の犯人はキースさんが言っていたようにジラード公爵だ。これが悲しい事件で、改めて聞くと胸が痛む。なにが違ければ救えたのか。この残酷な世界でそんなことを考えても仕方がないけれど。

 ……して、私がいま一番考えないといけないことはこの後のことだ。

 ジラード公爵が罪を認め、私たち関係者を皆殺しにする計画が潰えた後。追い詰められたジラード公爵が中央の柱に爆弾を仕掛けたことを告白し、キースさんを仲間に引き込もうと何やら声高らかに宣っている。しかし、そう何もかも上手くいくと思ったら大間違いだ。

「陣平さんって泳げます?」
「いきなり何だ、」
「ちなみに私泳ぐのあんまり得意じゃないのでよろしくお願いしますね」
「は?」

 もうすぐここも爆発だ。爆弾娘とは私のことである。

「あなたのことを決して許さない。この国の王は、――この私です……!」

 ミラ王女が涙の宣言をしたすぐ後、ルパンの「飛び込めー!」と言う声が響く。陣平さんが私の腕を掴んで抱き上げる。飛ぶようにして池に飛び込んだ直後、爆風で私たちは池に叩き落とされた。本当に私って何で生きてるんだろう?

 その後、陣平さんの助けを借りて命からがら池から這い上がった私は気づかなかったのだ。自分のコートのポケットに、何やら番号が走り書きされたコースターが入っていたことなんて。

「おい無事か?」
「もう爆弾は嫌だって言ってるのに……」
「時間あればどうにかできたけどな。ああいうのは爆破しちまった方が早い」
「専門家的な解説どうも」

 かくして私の慌ただしい一週間は瞬く間に過ぎて行った。次元さんと“また”“いつか”会うのは、もっと先の話である。

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