「反撃の方法はないのか! FBI!」
「あるにはあるが、暗室スコープがお釈迦になってしまった」
「姿が見えれば落とせる?」
「ああ。今日は優秀なスナイパーが二人もいるからな」
赤井が不敵に笑う。コナンがえっと驚く後ろから現れたのは、先程合流した諸伏が、赤井と同じ強力なライフルを構えて、にこやかに笑っている。狙撃手、というヒントから導き出せる選択肢はそう多くない。後で調べてもどうにかなりそうだ。
赤井の言う作戦とは、あの機体を傾け、照らす間にローター周辺を二人が狙撃しシステムを破壊するというもの。コナンは自分の腰に巻きつくベルトに触れて、しばし考えた。射出ベルトの閃光弾で機体を傾け照らすことはできるが、それにしても肝心の機体がどこにあるか分からない。もっと広範囲に照らせる何かがないと、――
「最初の明かりはこっちに任せな」
「松田刑事?」
「爆弾だ。回収したやつを起動させる、あとはこのゴリラが投げて飛ばせばどうにかなんだろ」
「ゴリラってお前、もっと言い方あるだろ」
「はは、変わんないな」
諸伏が笑いながら、ライフルをセットする。赤井と目配せ。それならうまくいくと確信できたらしい。
「お兄さん、あの二人と昔から知り合いなの?」
「ん? まあ、そんなとこかな」
「お兄さんは、一体――「おい、いくぞ坊主!」
松田が素早く爆弾を起動させ、降谷がそれを空に向かって勢いよく放り投げた。空中で爆弾が爆破。明るくなったところを、コナンの閃光弾が炸裂し、ライフル2発は無事機体に風穴を開けることに成功したのだ。
「やばい、このまま転がったら水族館に……!」
「おい坊主! 無事か」
「松田刑事! 僕は無事だけど、」
松田は、崩れて転がりかけの観覧車を見て、大きく舌打ちをした。おかしい。今日はどうなってんだ。爆弾はちゃんと解除したかと思えば、今度は銃撃。あんなもん振り回して攻撃されちゃ爆弾を解除した意味がない。大きく舌打ちをして、コナンと松田が走り出す。とんでもねえ、あそこに名前がいるんだ。
「おい坊主、止められるのか」
「分からない、でもやらないと」
「死んでも止める。力貸せ」
松田が、コナンを抱えて走り出す。最後の頼みは、伸縮ベルト。どうにかこれで車軸を固定して止めるしか方法はないらしい。
「もしかして観覧車の中に誰か、」
「ああ。お前の友達と俺の女がな」
崩れていない側にベルトを設置完了。あとは向こうと括るだけだ。
「頼んだぜ、”名探偵”――!」
揺れる観覧車。今どうなってるか端的に言うと、乗ってる観覧車が軸から外れてタイヤみたいに転がっている。これ現実で間違いないですか? 夢でも御免なんだけど?
「みんな、捕まって!」
どうにか軽くて小さいみんなが怪我をしないように、必死に抑える。安全ベルトなし、制御装置なし、傾いて倒れたら一発アウトの絶叫マシンに乗っている気分。こんなことってあんまりだ。観覧車は今度こそ大嫌いになった。一生乗らん。
陣平さんや諸伏さんの言うことを聞けばよかったと言う後悔と、しかし今ここでみんなを守れる大人としていてよかったと言う安堵。もう感情ぐちゃぐちゃ。これじゃ死んでも死にきれない。
「大丈夫、大丈夫だから」
その時だった。下を見る、観覧車に向かって迫ってくる一台のショベルカー。運転していたのは、チラリとしか見えなかったけれど、さっきあった白い髪の綺麗な女の人だ。「あの人、!」。私の声に反応して、哀ちゃんも下を見る。それはあっという間の出来事だった。ふくらむサッカーボールと、ショベルカーのおかげで観覧車どうにか停止。九死に一生とはまさにこのことである。
「「「止まった〜!」」」
そう、観覧車は無事に止まったのだ。観覧車とショベルカーに挟まれた、彼女の犠牲の上に。
私は、今日の日のことを、きっとあまり覚えていない方がいいのだろう。知らない方がいいことに、何やら足を突っ込んでしまったのだから。「あなた」
観覧車から無事に救出され、地面に足をつける。嬉しそうに笑うみんなに見えないところで、哀ちゃんが怖い顔で私を見ていた。あの女性がどこの誰で、どんな人間かは知らないけれど、二度も命を救われてしまった。誰かが誰かのために死ぬのは、悲しいことだ。
「大丈夫、私は何も見てないよ」
「そう」
「命、大事にね」
「あなたこそ。お人好しで死なないように気をつけなさい」
おっしゃる通りで。