翌日。定休日でお店の掃除をして、買い物に出たところ、運悪く少年探偵団に見つかり、連行され今に至る。喫茶ポアロ。この愛すべき犯罪都市・米花町に置いてもっとも安全であり、最も居心地の悪い場所である。
「やあ、名前さん、君たち。こんにちは」
「「「こんにちは!」」」
「こ、こんにちは」
できればいないでほしいなあと願う時に限って、彼はいる。カウンターの中でお皿を拭いている安室さんは、私を見て少し呆れた顔をしたが、すぐにそれを引っ込め、人好きのする笑顔を浮かべた。これこそみんな大好き安室スマイルだが、私にとっては怖いだけだ。あんた、友達といるときはもっと男らしい笑い方するでしょう。
「なんだオメーら、仲悪いのか?」
「そ、そんなことないよ?」
カチコチの笑顔で否定すると、元太くんはやや不服そうに「ならいーけどよ」と歩き始めた。子供は聡くて困る。ここはライバル店だから〜という大人の事情込み込みの嘘で見逃してほしい。
全員分の注文を頼み終えると、話題はつい先日リニューアルオープンした例の水族館の話になった。みんなは早速阿笠博士に連れて行ってもらったそうだ。流行は絶対に逃さないその行動力には本当に敵わない。そんなんだから事件に巻き込まれるんだよとは、まあ言えないわけだけど。
「へえ、いいね。私も今度行くよ」
「もしかして松田さんとデートですか?」
「あーまあ……そんな感じ」
遠くのカウンターから笑い声と、それを隠す咳払いが聞こえてくる。友達の恋話がそんなに楽しいなら、たまにはみんなに顔を見せるべきだ。心配してるのに。
まあ、いい。ともかく、私の恋話が好きなのは何も降谷さんに限った話ではない。常盤ツインタワービルの爆破事件のあたりから、この子たちは何かあると、私と陣平さんの話を聞きたがる。迷惑じゃないけど、普通に恥ずかしいから嫌だ。
「いいなあ、デート」
「スッゲェ楽しかったぞ!」
「そっか、それは楽しみだな」
なんでも大きな二輪の観覧車があるらしく、それがオススメだそうだ。確かに、そんなことニュースでも取り上げられていたかもしれない。しかし、なにぶん観覧車にはいい思い出がない。大体死にかかった記憶しかないので、私と観覧車の相性は悪いのだと思う。切実に。
「いつ行くんですか?」
「明日。松田さんが早く帰れるらしいから夕方からね」
「きゃあ、素敵!」
久しぶりのデートということでそれなりにウキウキと当日を迎え、日が沈んでしまうまでずっと長く感じた。松田さんから今から行くと連絡が入り、本当に珍しく問題なくここまで来れたと安堵した。私は愚かである。本当に反省しない。今日起きるこれからのことは、不可抗力なんだけども。
pipipi
「はい、もしもし」
『あ! 名前お姉さん?』
「みんな? どうしたの」
電話してきたのは、少年探偵団諸君。電話がかかってくることは滅多にないので、ちょっと心配した。
『今日、松田さんと東都水族館に行くって言ってたよね?』
「うん、それがどうかした?」
『お願いがあるの!』
「へ?」
「――で? なんで遠足みたいになってんだ?」
「まあまあそう怖い顔しないで」
そのお願い事やらは、なんでも東都水族館に連れて行ってほしいというものらしく、どうしてもと言われてしまったので仕方なく、だ。仕方なく。陣平さんはたいそう不服そうで、思わず笑ってしまった。陣平さんと子供って、本当合わない。
「ありがとうございます!松田さん!」
「へーへー」
帰りは乗せねえぞと松田さんが言う。なんでも現地で園子ちゃんと待ち合わせをしているらしく、帰りはそっちにお願いできるそうだ。この小学1年生、齢6歳にしてコネ使いまくりである。末恐ろしい。