何度見つめ直したところで、腕に嵌っているのは爆弾である。高性能パスの風を装っているが、こいつは私が園外に出たら爆発するらしい。コナンの人たち、本当、爆弾好きすぎて泣けてくる。もうそろそろ爆弾処理の基礎くらいは習った方がいい気がしてきた。というか。これ小学校のカリキュラムに組み込むべきでは?あまりに爆弾娘過ぎて、もう涙も出ないのだが。くそう

 pipipi ……
「はい、もしもし」
『もう直ぐ戻れるが、今どこだ』
「今諸事情あって医務室なんだけど、陣平さんこそどこいるの? 私行くよ」
『あァ?医務室? 具合悪いのか』
「ああ、私じゃないから多分抜けても大丈夫」
『じゃあ売店の近く向かう 喉乾いた』
「うん、了解」

このことをどうやって愛しの恋人さん改め、爆弾処理班のエースに伝えるか、考えるだけで気が重い。もしかして知らないかな。でも、今日起こった爆弾関係の事件って絶対名探偵絡みだろう。あの疫病神め…… 詳細を覚えていないが、少なくとも松田さんがこのリストバンドの爆弾を知っていることは間違いない。私にそのことを悟らせるようなことは言わないだろうから、また下手くそな小芝居を打つのか。泣きたい。

「あ、蘭ちゃん。私、この辺で抜けても大丈夫かな?」
「もしかして松田さん戻ってきたんですか?」
「うん、そうみたい」

良かったですね、と本当に我が事のように喜んでくれる蘭ちゃんは天使である。しかし、全く嬉しくもないし、何ならここからが地獄であるということは、私しか知り得ない事実である。南無。和葉ちゃんも「羨ましいわ」と笑っていたが、いや、確か平次も後から合流するのではなかっただろうか。あんまり覚えてないけど。

「じゃあ、ごめんね。哀ちゃん、お大事にしてね」
「……待って、!」

私がいなくなることに焦ったのか、体を起こした哀ちゃんを、先生がまだ寝ていなさいとそっと咎める。確かに爆弾つけた女が自分の目の届かぬところに行くのは怖いだろうけど、大丈夫。チート使って把握済みである。

「大丈夫だよ」

これ以上は何も言えないが、大丈夫だと繰り返した私を見て、何か感じ取ってくれたのか、哀ちゃんは、分かったわと引き下がってくれた。流石に聡明な子だな。

「付いていてくれてありがとう」
「いいえ。哀ちゃんも、——気をつけてね」

頭脳は大人な名探偵が味方にいるのは心強いけど、この世界線については引っ掻き回している当事者なので、油断などできるはずもない。何かが狂ってドカーンと言ったら、さよなら木っ端微塵である。

「ええ、あなたもね」

このこ、6歳ながら私より美人であるなと思いながら、スマホ片手に医務室をでる。どうして今日は、こんな憎らしいほど晴天なのか。

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「悪かったよ」
「別に怒ってないって」

 本当なら怒ってもいい場面ではあるけれど、今、いろいろなことに感情がちゃんと追いついてない。むしろ、戻って来てくれて良かったなくらいのメンタルだ。いや、本当に。なんだかんだ危ないことが起こるときは、基本陣平さんと離れ離れだったので、近くにいてくれるとだいぶ違うんだなと、今知った。もう怖い目に遭うのは勘弁願いたいが。

「は、アンタ、それどうした」
「それとは」
「これだよ」

バシッと掴まれた腕。そこでピッピと緑の光を発するはプラスチック爆弾。いいや、まだ役作りできてないよ。

「あーなんか園子ちゃんとたまたま会ってくれたんだよね」

ハハ~と笑ってみる。下手くそすぎて万事休すだが、陣平さんもそこそこ焦ってはいるらしく、私の大根役者っぷりにはまるで気づいてなかった。セーフ。

「アンタ、これが何だか知ってんのか」

彼の真剣な目が、私を試しているみたいだ。これが何か、そんなこともちろん知っている。愚問だ。

「——今日一日何でもできるフリーパス、……って聞いてるけど?」

さすが鈴木財閥は違うよね、とヘラヘラしながら泣きそうになった。私が何した。デートくらいさせてくれよ。もう、何も楽しめないじゃないか。

「へえ……便利なもんもらったな」
「ね、今度お礼しなきゃ」

名探偵が、どこぞのホテルの一室でビシッと決めるまで、ちゃんと笑うから、だから、陣平さんも、ちゃんと笑って、下手な芝居は二人で打とう。大丈夫。今までだって、そうやって来た。

さてこれからどうしたもんかとモゴモゴしていると、走り込んできたのは少年探偵団と、蘭ちゃん和葉ちゃん。みんなハアハアと肩で息をしていた。

「あ、名前お姉さん!! こっちにキャップ被った大きな男の人が走って来なかった?」
「えっ、歩美ちゃん? に、蘭ちゃんたちも」
「そんな奴は見てねえな」
「あかん、完全に見失ってもうた」

どういうことだ、と警察モードONの恋人を横目に、そう言えばそんな小さな事件もあったなと、ひったくりのことを思い出す。キャップと、コーラのシミのついてスニーカーの男ね。知ってた。