地上に降り立つ。その感覚は、観覧車を降りた時によく似ていた。
泣きそうな蘭ちゃんと園子ちゃんの熱い抱擁を受け、安心したのも束の間。名探偵がバッジを取り出し、少年団の安否を確認する。まあ、無事じゃない訳だけど。本当によくも、こんなに厄介ごとを引き受けてくるというか何というか。
「あ、コナンくん」
スケボー片手に、走り出したコナンくんを追おうとする蘭ちゃんを手で制する。
「私に任せて」
「でも、」
「大丈夫、私、免許持ってるから」
「え?」
本日2度目のダッシュだ。
閉まりかけのエレベーターに、足を挟んで止める。
「ちょっと、待った」
「名前さん?!」
押し入って、連絡橋のあるフロアまでGO。今日の私は見聞色の覇気をマスターしているから、君と一緒にいた方がいいと思う。前世から思っていたけど、あの外車、絶対名探偵じゃ足届かないし。
「今日の私と君は運命共同体だよ」
ウインクすれば、呆れ顔。小1のする表情じゃないぞ、コラ。
チーン
「松田さんに怒られても、知らないよ」
「それは困るな」
扉が開き、私たちを止めようとする救助隊を強行突破する。名探偵を抱えて、スケボーフルスロットル。もうどんな高いところだって、飛べる気がした。
「いたァ」
名探偵一人でもギリギリなのに、私も乗ったスケボーは危うく落ちかけた。おかげで身体中打ち付けて、痛いのなんの。勢いでここまで来てしまった私はバカなんだな、うん。バカならバカなりにやれることをやろう。
「名前さん達、先に屋上へ行ってて」
「うん、分かった」
痛む体に、鞭打って屋上までの階段をのぼる。まだ、ヘリコプターの姿は見えない。まあ、乗れないの、分かってるけど一応。
「ここで少し待ってよう」
私の言葉に素直に頷く、少年探偵団。不安げな表情はもっともだ。こんな小さいうちから事件にたくさん巻き込まれてきたとは言え、恐ろしいことには変わりない。だって、私も怖い。
「名前さんは、どうして来てくれたんですか?」
「え?」
「そうよ、危ないの分かってたのに」
光彦くん、歩美ちゃん。私は小さな二つの頭を撫でる。そんな泣きそうな顔しなくても、こっちには物語の主人公がいるのだ。無敵だよ。
「二人は前に、私に素敵な恋人がいるって言ってくれたでしょ?」
「はい、」
「その人は警察官でいつもたくさんの人を助けてるの。——本当に素敵な人だから、私も彼に恥じるような生き方はしたくないのよ」
胸を張って、隣に居られる私でいたいから。目の前に助けられる人がいるのなら助けたい。手助けできることがあるなら、手助けしたい。それが彼の生き方なら、私だって。
「カッコいいんだな、お前!」
「ありがとう、元太くん」
「ヘリコプターが来ました!」
光彦くんの声に、私は身構える。
「みんな、一度下がって」
「なんでだよ?」
「いいから!」
ドッカーン
あの銀髪が小細工をちょこまかとやってんだ。本当に地獄に落ちろ。地獄でずっとポエム歌ってろ。「早く、こっちだ」現れた名探偵の声に、私たちは急いで階下へ。さっきのパーティ会場へ逆戻りだ。何度でも言うが、これは全部イカれた芸術家と、銀髪のせいである。
「どうなってんですか、このビルは」
ほんと、それな。このビルこの前できたばっかりなのに、おかしいよ、この世界。
「こうなったら、屋上に火が消えるのを待つしか「そんな時間はないみたいよ」
そう、そんな時間もない。いよいよ、フィナーレだ。