土曜日、駅前のハンバーガーショップ。続いてドーナツ屋。私と小さな彼、彼女に向かい合い、真剣な顔で悩みを吐露する彼らの話を聞いてみる。うん、すごい。私が小学生の頃、こんなことを考えていただろうかと思ったけど、考えているはずもなかった。私の初恋は、そもそも小6だし。保育園で血迷って一番仲のいい男の子に好き~!と言ってしまうような、貞操観念の低い子どもではなかったのだ、私は。もちろん、世のキッズたちが真実の愛をしているなら私は謝るけど。まあ、いい。そうじゃない。今は、光彦くんと歩美ちゃんの悩み相談について真剣に頭を捻らなくては。

「でも、どうして、私だったのかな?」

映画ではこの役目、蘭ちゃんだったと思うんだけど。



「——で、なんでアンタだったんだよ」
「素敵な彼氏持ちだって聞きつけたらしい」
「へえ」

わかりやすく笑顔になったのは、素敵な彼氏——もとい松田陣平である。珍しく定時で本庁とおさらばした彼は、いつものようにまっすぐ私のお店兼家に。今日はお客さんも少ないし、と臨時休業にして楽しく夕飯を囲んでいる。それで午前中、朝イチで別々にふたりに会ったことを話せば、さも興味なさげに胡瓜の浅漬けを食べている。呑気なものだ。刻一刻と大事件に向けて近づいていることを彼は知らない。私だけしか知らない。この前会ったあの酔っ払い議員はもうすぐ死ぬだろう。好き勝手に目の前の男を救済した私だけど、誰だって助けられる訳じゃない。目下の問題は私自身があの爆発されるツインタワービルから逃げられるのかってことなんだけど、そこは上手くやるしかない。パーティまであと数日だというのに、裏方は欠員だらけで、私やっぱり行けません~なんて言える雰囲気ではなくなった。

「でも、私たちって普通じゃないからあんまり参考にならないと思うんだよね」

それなりのことを返したつもりだ。他人の恋愛に面白半分で首を突っ込む真似は大好きなんだけど、真剣な二人があんまり可愛いから下手ことも言えないし。人を好きになるのは決して悪いことじゃない。これは映画で蘭ちゃんも言っていた気がする。小学生に愛を語れというのが無理な話で(頭脳は大人な名探偵を除き)、だからこそ、誰かをいいなと思う気持ちは大切にすべきだ。一人一人と真剣に向き合えば、誰が好きか、誰を愛しているのか、自ずと答えは出る。歩美ちゃんだって、コナンくんが蘭ちゃんを好きだと思うならそれでいい。歩美ちゃんがあの小生意気な主人公を振り向かせてやればいいのだ。歩美ちゃんは蘭ちゃんにも負けない可愛さだから。できれば、あんな死神よりはもっと落ち着いた生活の送れる男性をオススメしたいのだけど。

「普通じゃないってなんだよ」
「思い出して? これまでのこと」

爆弾をぶん投げて親友を救った女。彼はたまたまこの店と出会い、私は観覧車で無茶して彼の命を勝手に助けた。初めは拒んだくせに、結局誰かさんが好きでたまらない。もっと普通の出会い方をしていたら、と考えなかったこともないけど、何が欠けても私と彼は出会わなかった気がするのだ。どれもが必然で、愛おしい思い出だけど、普通ではない。まさか歩美ちゃんに爆弾ぶん投げろなんて言えるはずもないのだから。

「ずっと一緒にいろよ」
「——どうしたの、急に」
「普通じゃないのは百も承知。心配かけてんのも寂しい思いさせてんのも、勝手言ってんのも分かってんだよ」
「……陣平さん」
「でも、どうしようもねーだろ」

最後の一口。彼が箸を口に運ぶ。「そんなに私が好きなの?」茶化すような誤魔化しの言の葉も、彼が「あたりめーだ」って自信満々に笑うから全部無意味なものになる。なんだってこの人は。どうしようもないって、それは私の台詞だっつうの。

「ごちそう!さま!!」

ガタリと立ち上がって、お皿を流しへ。彼とこれ以上見つめあっている自信なんてない。
「皿洗っとくから先風呂入れよ」
ああ!好き。