▽Law
いまおれたちは、時代の終わりを見せられている。
シャボンディのでかいスクリーンの前にいる誰もがそう考えていた。偉大なる航路において最強と謳われる四つの海賊船。海の皇帝の一人であり、海賊王に最も近いとされた男、エドワード・ニューゲート。白いクジラを象った船に乗った男たちが、白ひげ海賊団。この海で最も誉れ高い一団と呼ぶに相応しい。
「おいおい、どうなってんだよ……」
ペンギンと、同じことを考えていたやつがこの海にごまんといたことだろう。白ひげ海賊団と、海軍・七武海を含む総戦力がマリンフォードに集結している。未だかつて、誰もみたことのない光景がそこにあった。
『このままだと大切な人が死んでしまうんです。だから助けたい、絶対に。』
なぜ、いま、あの女のことを思い返すのか。そのスクリーンの中に、彼女はいない。この血に塗れた戦場に、あの平和ボケした女がいるはずもない。それなのに、一度頭を過ぎった女の顔が、ちらついて離れない。行かなければ死んでしまう大切な人。考えたくなどない、心をかき乱されるのは御免だ。それでも、もしかしたら。いや、もう間違いなく。彼女が助けたいと言った『大切な人』とは、マリンフォードで白刃の前に立たされているあの男。火拳と呼ばれる、あの海賊に間違いないと、己の勘が告げている。
「あっ、映像切れちまった」
「何かあったのかな?」
黒くなったモニター。阿呆どもがわあわあと喧騒の中でざわめき合う。舌打ちをして、少し先の未来に思いを馳せる。『助けたい』『絶対に』自分の言葉に、違うような女ではなかった。己の力を知りながら突っ込んでゆく無鉄砲さと、益にもならないお人好し。情が移りやすいのだ、と言った。3年経って、何も変わらずに彼女を忘れない己がいるのだから、あの馬鹿な女も何も変わらずに生きているだろう。
「……面倒なことに首つっこみやがって、」
恨み言に近い。愛の言葉では決してない。おれの言葉に、え、と反応したシャチを無視して、ベポに船を出すぞと指示をした。途端に慌てて支度が始まる。黙って、あんな男にくれてやる道理はねぇ。
「ついて来い、ジャンバール!」
海賊なら海賊らしく、奪ってみせろ。必ず戻れと言った。あの女のためなら待てるとも言った。だが、やっぱり待てなかったんじゃないかと、彼女に笑われたっていいだろう。