四皇・白ひげ。名は聞いたことがあったが、実際に対峙するのは初めてのことだった。当たり前だ、なんでこんなことになってる。
「親父、これが名前だ」
「初めまして」
「話はエースから聞いてる」
「そうでしたか」
「まァ、ゆっくりして行け」
深深と頭を下げる。エースくんに強制連行された私は、近くの島までモビーディックに乗ることになった。
「エースの恩人との再会だァ、宴の用意をしろォ」
「うええええい」
喜ぶ船員。奥で肩を竦めたパイナップルがマルコか。本物だァ。
エースくんとの再会はもっと感動的なものだと期待していた。しかし現実は誘拐に近い形で今に至る。荷物を取りに行かせてくれたのが、せめてもの救いと言っていいだろう。私を抱えてモビーディックに戻ったエースくんは、そのまま私を白ひげさんの元へと連れてゆき、すっごく雑な挨拶をした。私もよく分からないまま言葉を交わし、よく分からないまま部屋を宛てがわれてる。普段は看護婦さん達が使っている部屋のひとつらしい。めちゃくちゃいい匂いするよ。神様は鼻が曲がりそうだって怒って帰った。やんちゃ坊主の顔が見られて満足したらしい。ツンデレだった。
とにかく、次の島はあの連絡船の到着地よりもっと交通の便が優れた場所になるというので、もうしばらく日にちがかかるらしい。嵐のような一日だった。
──コンコン
「はい」
「名前、飯だ」
「ありがとう、今行くよ」
ドアを開ける。エースくんがいる。良かった、上もちゃんと服着たね。締まりまくった身体は素敵だけど、あんまり身体冷やすのはオススメしないよ、私。どうでもいいね、お腹空いたや。
「今日は名前の歓迎会だ」
「歓迎って、すごく恥ずかしいんだけど」
「大丈夫、みんな酔っ払いだ」
「何が大丈夫なの?」
エースくんは答えず、バーンと甲板に続く扉を開いた。いつの間にか夜の空には星が煌めく。白ひげ御一行が待ってたぞーと野次を上げて、私たちは真ん中の方へと通される。慣れた動作でお酒を注ぎ、ビールを掲げる。
「かんぱァい!」
夜が、ようやっと始まったらしい。
・・
・
わぁわぁと盛り上がる船。にしても広い船だ。ハートの海賊団に長くいたせいか、乗る船がみんな広く感じる。だって船頭から船尾まで見えないよ、これ。まさに白鯨という訳だ。
「邪魔するよい」
「わっ」
「酒と飯は足りてるか?」
「ああ、はい。ありがとうございます」
マルコさんとサッチさん。この先に起こることは考えないようにして、私は笑顔を浮かべる。美味しいですと返せば、豪快な笑い声が返ってきた。
「あんたが名前か、思ってたのと全部違ぇな」
「そうなんですか」
「エースが酔うとやたら話したがるからよ、本物はブサイクなんじゃねぇかと」
「褒められてます?」
「サッチはこういうやつだよい」
サッチさんはまた笑う。エースくんが他所から飛んできて、マルコさんが呆れたように笑う。たくさんの笑顔が溢れていて、この人たちがエースくんの家族になってくれたのかと思うと、心がじわんと温まった。