こんにちは、爆発に巻き込まれた一般人。違った、爆発に巻き込まれに行った風変わり一般人、名前です。流石にマズかったのか、警察にもみ消されて私のことは新聞各社には載らなかった。よし。そんなこんなで、検査入院を終えると異常はないというので逃げるように退院した。紹介状をもらったので、近くの病院に通院してねということだ。松田さんと萩原さんはこちらがうんざりするほど礼を言い、また来るよとウインクして(チャラい)去って行き、私はまたの機会に恐れ戦いた。キャラとはあんまり関わりたくはない。

折れた腕と足も無事にくっつき、私はようやくお店を開くことができた。両親に連絡を入れれば自分のペースで頑張りなさい、と。言われなくてもあんたらのマイペースの血は流れている。商店街と町内会から頂いた大きなお花を片付けて、お客さんもだいぶ落ち着いた頃。爆弾事件から1年が経とうとしていた。米花町は相変わらず物騒で、連日事件だ事故だと騒いでいる。しかし住んでみると案外此方に被害はないものだ。住めば都かもしれない。

「いらっしゃいませ」

遅めのランチタイムか、と開いたドアの方に顔を向ける。バッチリ目が合った。サングラスの奥の真っ黒な瞳と。おおふ。前言撤回。今すぐ移転したい。

「えっ、うそぉ」
「ここアンタの店かよ…」

どっぷりとため息をつきたいのはこちらである。帰れと言えないのが客商売。もう一度いらっしゃいませを言い、お好きな席にと促した。そこで何故カウンターに座るのかは理解できない。

「お久しぶり、です」
「本当だよ、見舞いに行ったらもう退院したとか言われるしさぁ。参ったよ」
「その節は」ハハハハ

貴方たちから切実に逃げたかったとはまさか言えない。萩原さんは喋り口調通りというか、チャラiじゃなくて、すごく気さくな人。180°どこから見ても怪しげな私にも、こうやって素敵なスマイルを向けてくれる。お礼したかったんだよーなんて、本当にもういいのに。

「Aランチ」
「はっ、……はい」
「じゃあ俺も同じのお願い」
「少々お待ちください」

目の前で、松田さんと萩原さんがご飯を食べている。私が作ったチキンのトマト煮込みだ。感慨深くて、またも胸が詰まった。本当に生きててくれてよかったなあ。

「おふたりは、お仕事ですか」
「ま、そんなとこ」
「アンタひとりでやってんのか、この店」
「はい、両親から譲ってもらったお店で」
「へえ」

カチリと食べ終えたお皿に、お箸を置く。おしぼりで口を拭いた萩原さんは、改めてお礼をと言って引かない。松田さんもこいつのやりたいようにやらせてやれよ、と全く助けてくれる気はないらしい。

「──じゃあ私、欲しいものあるんです」

「よお」
「いらっしゃいませ」

奇跡の再会から数週間。ディナータイム、ラストオーダーぎりぎりに顔を見せたのは松田さんひとりだった。いつも一緒!って訳じゃあないらしい。そりゃあそうか。例の如くカウンターに座った松田さんは、メニューを見て、味噌汁とご飯としょうが焼きのセットを頼んだ。へい毎度。

「これ。萩原から」
「本当に用意してくれたんですね」

私が欲しいと言ったのは、あの時、ビルの窓ガラスに見事ヒビを入れた優れものハンマーである。この世界ではパワータイプばっかりで、簡単に窓ガラスを体で割るけど、どう考えても私には無理なので道具を備えることにした。極力巻き込まれたくはないが、若干足を突っ込んで今後の人生に不安がある。ネットで買おうと思ったらまあまあ値が張ったので、躊躇っていたのだ。有り難し。

「今度また来るからってよ」
「わあ、嬉しいです」

嘘です来なくて大丈夫です。お気持ちだけで。いや、このハンマーだけで。ニコニコしてみたら、松田さんに気味悪がられた。失礼な。味噌汁飲みながらそんな目向けないで。

「……うめぇ」

そうでしょう、良い女とは美味い味噌汁を作るものだ。