「そういえば、名前が能力使ってるところって見たことないな」
「たしかに~」
ペンギンさんとペボさんが、うんと顔を見合わせて頷く。
「ありますよ」
私、別に隠してない。嘘だとか、ないよだとか、そっちこそ、嘘つけって感じなんだが。まあいいや。じゃあ見ますか?と聞いてみれば、話に入っていなかったはずのシャチさんまで高速で首を縦に振っている。そんなに見ても面白いものではないと思う。見せますけど。――見せるから!
ボフンッ
「――名前?」
「なんでしょう」
みっつのお口がポカン。そして、シャチさんが顔を背けて吹き出し、ペボさんが「か~わいい~~~!」とはしゃいで私を両手にのせた。この状態になって見るしろくまさんはなかなか恐怖だ。野生の本能で飛び立ちそうになる翼をグッと堪える。ペボさんを傷つけるわけにはいかない。私が体を縮こめてブルブルしていると、おい、と誰かの呼ぶ声。この声の低さ、ぶっきらぼうの中に小さじ一杯分の愛情。まさしく、敬愛するキャプテンの声だ。
「名前……って、何してんだお前ら」
「名前の能力見せてもらってたんです」
シャチさんの声が震えている、全く失礼な話だ。パタリとペボさんの手から、船長の肩に飛び移れば、3人が揃えて手を叩く。大きい音は苦手。船長に懐いてる鳥って、名前だったのか、って。そうです。私でした。トリトリの実モデル雀。この世で最もひ弱な鳥の一つである。
「名前、後でいい」
「チュン」
「名前ってさ、元海軍でしょ。なんで海賊になったの?」
ペボさんの言葉にふむと考える。この船に乗って、その話をするのは初めてだった。
話すと、長くなる。ということもない。
海軍時代に、上司の勧めで悪魔の実を食べた。「食べて弱くなることはない、カナヅチも特に支障はないから」と、言葉巧みに乗せられて。たしかにその通りだなと思ったのだ。食べた。不味かったけど。能力者になると、海軍はお給料も少しだけアップしてもらえる。さてさて、何の能力者になったのだろう、とワクワクしながら力を使うと、私は可愛らしいスズメへと変身した。あの時の上司の顔は、生涯忘れられない。
それからこの愛らしいフォルムを使って、ハニートラップを仕掛けるなんて訳もなく、私は諜報部隊として暗躍。それなりに重宝された。しかし、私は出会ってしまったのだ。まさに青天の霹靂。私にも心があったのだと思い出した。
「船長のこと、好きになっちゃったからですかね」
それ以上でもそれ以下でもなく、好きな人のそばにいたいと、その想いだけでここまで来た。アホとは言うな。本気である。
船長室のドアを叩く。入れと言われると同時に、ドアが開いた。
「…ペボたちはいいのか」
「だって、3人ともとっても失礼なんです!」
可愛いだの、弱そうだの。それじゃあ戦えないだの。戦うだけが全てじゃない。私にだって、役目はあるのだ。見た目で判断しないでほしい。フンッと腕を組むと、船長が笑う。
「で、報告しろ」
「はーい」
スズメになって、三千里。嘘です、一番近くの島まで。この辺の海域を牛耳る海賊が根城にしているそうだ。私はひとっ飛び。スズメの姿でちゅんちゅんやれば、誰も気に留めることはない。お城の中まできっちり見てきた。どこから入り込んだんだってバレて追い出されたりもしたけど、おおむね船長の知りたいことは調べてきた。城の規模、海賊の数、頭の居場所。何と今回は溜め込んだ宝の置き場所まで見つけてきました。さあ褒めろ。
「戦力はどうだ」
「弱そうでした!」
船長が、ゆっくり振り返り、鬼哭に手をかけた。
「……気を楽にしろ」
「城の大きさは、そこまででもないですが、船員含め郎等の数が多いので厄介ですね。頭はいつも一番奥の座敷で前に出てくることはありません。護衛は腕利きのが4~5人常に張り付いてます。その他の戦力は雑魚ばかりなので、船長の出る幕は最後までないかと」
静かに仕舞われた。危なかったぁ。
「せんちょーう、ご褒美は?」
「あ?」
そんなんじゃ負けないぞ。諜報活動はこう見えて危ないのだ。るんるん地面のパンカスつまんでいればいい訳じゃない。大きな鳥に食われそうになったり、私の有り余る可愛さのせいで悪党に囲われそうになったりするのだ。いつも命からがら逃げてきているのを、この世の誰も知らない。
ドッカーン!!敵襲だあああ!!
「方付けたらな」
……殲滅します。
ペンギンは恐れ慄いた。見張り番の敵襲の知らせに、慌てて本を放り投げ、甲板まで走って来たというのに、これは。既に伸びて転がっている輩が数名。端の方へと目を向ければ、名前が目にも止まらぬ速さで相手をなぎ倒している。さっきまで雀だちゅんちゅん、なんてやっていた人間と同一人物とは思えない。というか思いたくない。
ペンギンは可愛いものが好きだった。リアルなペンギン、寝ているときのペボ、スズメも好きだし、船長と話しているときの名前#name1#も。戦闘中の彼女は別人。いつ見ても圧巻の戦いぶりである。
「俺が出るまでもねえな」
可笑しそうに、ゆったりと現れた船長が笑う。ハートの海賊団の特攻隊長・ペボと、新米ですからといつもいの一番に飛び出してゆく#name1#。ふたりが歯の立たない敵など、早々いるもんじゃない。おかげで失職してる。
「名前って、本当に元海軍なんですか」
あんな技見たことない。海軍と言えど、今まで対峙して来たそれとレベル違いであるのはいうまでもなし。海軍とか言って、本当はもっとなんかこう、――「六式だ」六式って」あの海軍の超エリート集団が生み出した体術の頂点。
「あいつは、元海軍だが、CP9所属だったがな」
オーマイガー。めっちゃナチュラルに口をついて出た。CP9って言ったら、正義のために長官直属で暗躍する秘密部隊じゃねえか。子供の頃から超人教育受けてるとか、ときには任務遂行のために民間人殺すとか。秘密部隊なだけに、飛び交う噂は様々。何にせよ、かなり厄介な出自であることに違いはない。
「じゃあ」
「海軍は、血眼になって探してんだろうな」
楽しそうに言うことじゃあない。頭抱えた。この人たち怖い。
「……なんでそんなの船に乗せようとしたんですか」
厄介なのは嫌いなはずだ。
「惚れたからだろ」
「Hoooow」
待って、名前がビックリして海に落ちた。
「……ペンギン」
「ペボー」
もはや恋とは持病である
song「君という花」by ASIAN KUNG-FU GENERATION