路地裏から引き摺られるようにして、犯人の男は連行されて行った。恐ろしい。スモーカーさんは部下らしき海兵たちに指示を出すと、私の元へ歩み寄り今だ座り込んだままの私に合わせるようにしてしゃがんだ。よく見ると、海軍の制服ではなく私服を着ている。やっぱりデートに向けてオシャレしてくれたらしい。汚れちゃったけど。
「ったく馬鹿野郎、殺されたらどうすんだ!」
「ご、ごめんなさい」
反射的に謝罪の言葉が口をつく。でもあの時の私にあの女の人を助けないという選択肢はなかった。自分が間違ったことをしたとも思ってない。力不足はもとより承知の上だ。逃げた女の人は無事に保護されたと言うし、結果オーライ万々歳で許して欲しい。
「頼むから無茶はやめろ」
「はい」
ぶんぶん首を振る。私だって本当は怖い思いはしたくない。世界を知るために海へは出たけど、別にスリルを味わいたいわけじゃあないのだ。ハア、とまた大きくため息を吐いたスモーカーさんはゴツゴツした手でペちペちと私の顔やら肩に触る。
「無事か、無事だな」
大丈夫ですと言おうとして、それは太い腕に抱かれたことで叶わなかった。スモーカーさんの服からは相変わらず葉巻の匂いがする。ちょっとだけ落ち着く。
でも心臓が恥ずかしいくらいにバクバク鳴っている。嫌だなあ、もう。抱きしめちゃうくらい心配をかけてたなんて、心底申し訳ないという感情がふつふつと湧き上がる。
ごめんなさいスモーカーさん、ともう一度言った。スモーカーさんはやっぱり何も言わなかった。トントンとスモーカーさんの背中を叩くと、彼はゆっくりと私を解放する。ごめんなさいありがとう。おかげで今生きていられる。
「…台無しになっちまったな」
スモーカーさんはジャケットの内ポケットから何やらひしゃげた箱を取り出した。リボンが掛けられているのを見ると、それはどうやら私へのプレゼントだったらしい。男と揉み合う時に潰れてしまったんだ。スモーカーさんがゆっくり箱を開けると、中には星のモチーフのネックレスが入っていて、その星はひとつの先が欠けていた。
「頂いてもいいんですか」
「いや店に行って新しいものを、」
「私これがいいです!」
「……」
「これも、思い出として良いじゃないですか」
素敵、可愛いです。手に取ると、欠けた星にどこか親しみを感じた。嬉しい。可愛い。早速首につけてみる。
「どうですか」
「…良いんじゃねぇか」
「ふふ、でもどうしてこんな素敵なプレゼントを?」
「もうすぐ17になるんだろ、その祝いのつもりだったんだがな」
まさかこんな事になるとは。分かります分かります。
「…ありがとうございます、スモーカーさん」