ゴア王国の港から商船に乗せてもらいこの島に来て、早1年。最初の1ヶ月は何とか宿を渡り歩いていたけれど、将来のことを考えるとお財布が厳しそうなので住み込みで働ける場所を探して今のところに辿り着いた。昼は定食屋、夜はバー。気前のいい店長は町の人気者で、私が困り果てていることを知ると『うちの店で働いてくれたらここの2階をタダで貸す』と何とも有り難すぎるお話をくれたのだ。こっちが本物の神様かと思った。

そしてそのお言葉に即、了承の返事をして、今に至る。店長は私がこの街に腰を据える気がないことを知った上で、息子が料理人修行で違う島に行っていて店を手伝ってくれる人がいないから私に頼みたいということだった。その息子さんはあと1年かそこらで帰ってくるからそれまで手伝ってくれないかと言われたのが1年前、息子さんの修行も残りわずかと聞いている。そして私も来月には17になる。

「いらっしゃい!」

お昼は安くて旨いご飯を求めて、たくさんの人がお店にくる。ボリューム満点のうちのご飯は特に男の人に大人気だ。私はそこで仕込みから配膳まで色々手伝わせてもらっている。こういう普通のバイトには憧れていたから嬉しかった。前世は社会に出る前に死んでしまったし。

名前ちゃん、お水!」
「今行きます!」

忙しいながらもやりがいのある仕事。店長は飯の美味さと街のみんなのお財布ばかり気にするただの良い人で、商売の才があるとはとても思えないけれど、そんな所も気に入ってる。息子さんは経営も学んでくるという話だったのでそちらは任せたい。このおじさんはニコニコしながらすぐにツケを許してしまうからダメ。いや良い人なんだけど、いや良い人だからダメなの。

「今日も精が出るね」
「店長、肉屋のおじさんまたツケにしてって」
「いいじゃないかツケとけば」
「もう2ヶ月払ってません」
「まだ2ヶ月さ」

魚屋の親父はもう半年だと笑っている場合じゃないと思う。切実に。

「…あ、いらっしゃいませ」
「まだ残ってんのはあるか」
「A定食とフライが残ってますよ」
「じゃあフライを貰おう」
「ありがとうございます」

そう、この人は何を隠そう白猟ことスモーカー大佐である。ちなみに今は少佐らしい。とても若い。漫画通り、いつも葉巻を咥えてもくもくさせている。食事中は流石に吸ってないけど。この島で下ろしてもらった時点である程度予想はしていたけれど、広い街だし悪さしなければ海軍と関わり合いになることもないだろう欲を言えば一目見たいなあ位の心構えだった。

それがどうだろう、まさか店の常連さんだとは思うまい。

「お待たせしました!」
「ん、悪いな」

頂きますとご馳走様をキチンと言うこの人は出会って1年、評価はうなぎ登りである。背も高くて格好いいしね。ちょっと強面だけど。ああ、もうお気づきと思うけれど今私がいるのは、始まりと終わりの町・ローグタウンだ。