翌朝ようやく眠ったルフィくんに布団を掛けて顔を洗おうと外に出ると、エースくんにサボから最期の手紙が届けられたあとだった。
「あんたももう寝な、疲れただろ」
優しい皆さんに断って、私はあの岸を目指す。きっとあそこにいる。直感だった。だけど確信があった。歩いていたはずの足はいつの間にか走り出す。早く、早くエースくんに会わなければ。
「エースくん……!」
静かに音を立てる波を前に、小さな少年は泣いていた。まだ10歳の彼はその背中に沢山のものを背負い、その手に拙い手紙を握って、声を上げて泣いていた。
「…名前、」
たまらずその体を抱きしめれば、エースくんは私の胸に縋ってまた泣いた。これは悲しいことだけれど人生の分岐点に過ぎない。全部乗りこえて、君はこの海を進むのだ。今はたくさん泣けばいい。優しく彼の頭を撫でる。背中に回った腕は細くて小さいのに、どうして私はあのふたりが強くて逞しいと思ったのだろう。強いはずもないし、強くある必要も無い。現に私は彼等より5つも上なのにまだまだ弱くて未熟だ。エースくんひとり上手に慰めてあげられない。
泣いて泣いて、たくさん泣いたエースくんは鼻をすすって顔を上げた。
「名前もいつかは居なくなるのか」
つぶらな瞳は不安に満ちている。大丈夫、恐ることは何も無いさ。
「うん」
あと1ヶ月と少し。そんなに居ないかもしれない。私は旅人、みんなとずっとは居られない。
「人生には出会いと別れしか無いからね」
エースくんの頭を撫でる。エースくんは私の言葉に分かったような分からないような顔をした。今はまだ分からなくていいんだ。
「だから別れは必ず来るけど、また会えるよ」
出会いがあれば別れがあるように、別れがあれば出会いもある。エースくんもこの海の果てに家族と呼べる仲間を見つけられるのと同じこと。それに比べれば私との出会いなんてちっぽけなものでしかない。
「ほんとか、」
「きっとね」
「…ぜったいか」
「大丈夫だって」
ほら笑って。わたしエースくんの笑顔大好き。