ルフィくんに手を引かれ初めてフーシャ村に降り立った。言わずもがな私の遅い歩みのせいでルフィくんの腕は2メートルほど伸びていた。すまん。
「マキノ!」
酒場について早々大きな声でレディの名前を呼び捨てにするのは非常に宜しくないことである。以後教育の必要がある。
「あらルフィくん、そちらの方は?」
「名前だ!」
「はじめまして」
実は今ダダンさんのところでお世話になっていて。頬を掻きながらそう言うとマキノさんはそうだったんですねとキラキラした笑顔を向けてくれた。生で見るととっても美人。素敵だなあ。
「マキノです、」
ルフィくんと共にカウンター席に座る。昼間はお酒以外も出してくれるらしく、美味しいグアバジュースを頂いてしまった。グアバは家庭菜園で育てられるかな。もし出来たらあっちでも作れるかもしれない。
「名前さんは、どちらからいらしたんですか?」
「ドミノシティっていう町なんですけど」
「そんな遠くからわざわざ」
「あての無い旅です」
いつぞやの時代劇のように決めてみたが苦笑いされただけだった。なに、本当なあてのない旅だから良いけれど。ちょっと恥ずかしい。
「名前のメシはうめぇんだ!」
「そうなの、良かったわね」
「おう!」
しししとルフィくんはまたガツガツと何やら大きな肉を食らっている。本当に無尽蔵の食欲だ。
「おい聞いたか、天竜人の話」
「ああ、あっちは今大慌てで準備してんだろうな」
「ったく面倒くせぇのが来る」
折を見て、市場にでも連れて行ってもらおうかという時に漏れ聞こえてきたのは他の客の話だった。天竜人、うーん実在するんだなとどこか他人事のように思う。私の生まれた町でも話は伝われど、生で見たことは無い。いや見たくもない。触らぬ神に祟りなし──こちらの町には関係ないと言っているし大丈夫だと思うが何せよ印象の良くない連中であることは違いないだろう。
「行こうか、ルフィくん」
「おう、またなマキノ!」
「またねルフィくん、名前さんも」
「はい、ありがとうございました」
可愛らしく手を振り返すマキノさんにお金を渡して手を振り返す。さて市場はどこだろう。今日は美味しい何かを買って帰ろう。
「なあ天竜人って何だ」
ルフィくんが私の腕を引いた。
「この世の道理のことだよ」
「なんだそれ」
「いずれ分かるよ、」
とにかく下手に関わっちゃダメ。分かった?──私のその言葉にどれだけのものを感じ取ったかは知らないが、ルフィくんは分かった!と頷いてまた走り出してしまった。速い速い。あと遠くから「遅せぇぞー!」って叫ぶのは恥ずかしいからやめておくれ。ああ、また腕が伸びてる。