「はいよ、お嬢ちゃん」

こんなところで下ろしてごめんよ。顔の真ん中に大きく十字の傷をつけた船員さんが優しく手を差し伸べてくれる。

「いえ本当にありがとうございました」

15歳になり母が亡くなり旅に出た。本当は定期船か商船に乗せてもらおうと思っていたのに、商船だと思って頼んだ船が海賊船だった時にはおったまげた。出鼻をくじかれるどころの騒ぎではなく、いきなり死ぬんだなこれはと悟ったもんだ。それがどうやらとても気のいい海賊さん達で、私を殺す気はないからと手頃な島まで乗せてきてくれた。世の中分からないもんだなあ。

「俺らはこの島のことは分からねえ、どっかに村か町があるはずだからそれを探してくれ」
「はい」

海賊船だから港には付けられないごめんと言うが、こんな厳つい海賊船から私が降りてきたらそれこそ私が此処で生活していけなくて困る。次の計画を練るためにも、この島には3ヶ月ほど世話になるつもりなのだ。

「これ、持っていてくれ」
「え、悪いです」
「いいんだよ、こんなもんしかやれねぇんだから」

腕いっぱいに彼らがくれたのは野菜だった。ここで盗品の宝石なんて貰った日には迷うことなく逃げ出していただろうからある意味助かる。いつ町に着けるかも分からないしね。

「本当にありがとうございます、ヘルシー海賊団の皆さん!」
「ペルシーな、ペルシー海賊団」

あらやだ間違えた。あんまり健康そうなものばっかりくれるから、つい。

「ペルシー船長お世話になりました」
「おう、気をつけろよ」

その言葉に大きく頷くと、ヘルシー船長の号令で船が岸を離れていく。サヨウナラと手を振ると、甲板の上のみんなも大きく手を振り返してくれた。ありがとう~!と大きな声で叫べば、ガハハとみんなの笑い声が聞こえる。短い間だったけれど実に楽しかった。流石大航海時代。

「よし、」

まずは貰った野菜を鞄から取り出した風呂敷で包んで、と。さあ村は何処だろう。出来れば三ヶ月ほど働かせてくれるところがあれば良いのだけど。鼻歌混じりで後ろを振り返り、さあ出発とヘルシー船長のように心の中で号令をかけて一歩踏み出すとガサガサと茂みが揺れている。おい、いきなり野生動物にエンカウントはないだろう。武器もない場合の対処法を彼等に習っておけばよかった。ちょっと待て、心の準備が出来てない。というか死にたくな「…お前、海賊か」「ひっ」

茂みから顔を出した小さな顔が2つ。そばかすに黒髪の少年と、麦わら帽子を被った目の下に傷のある少年。どっからどう見ても少年時代のエースとルフィである。ハハ、超ウケる。

「おい!聞いてんのかよ!」
「違う!違うよ、海賊じゃあない」

ここに来て主役とエンカウント。野生動物の方がマシだった。