「手を出せ」

言われた通りに両手を差し出すと、神様は私の左手の甲をトンと指差した。そこには生まれたときからあるという蛇の紋様に似た刺青。母は珍しい痣だと笑っていたけれど、痣がこんなにくっきりと紋様になっているわけないと常々思っていた。やっぱり私のこれまでと関係していたか。

「これはワシがお前にやった能力だ」

能力──何でも神様は神様連合(という組織が天上にはあるらしい)の中でもまあまあ上位の役職についているらしく、たくさん能力があると言う。例えば私を生き返らせるための団扇もその一つだとか。

「お前は人の痛みを引き受けることが出来る」

誰かの傷にこの左手を翳すとその人の傷の痛みを請け負うことが出来る…らしい。えっ、それ何の役に立つんですか。

「それはいつか分かる日が来るじゃろう」

神さまのお言葉となると中々重みがある。そんなもんかと改めて手の甲の蛇を眺める。まあ確かに蛇は神様の使いなんだっけか。

「それにお前自身も傷の治りは早いはずだ」

そう言われて思い返すと確かにそうかもしれない。これまで遊んで作った怪我も次の日には瘡蓋になっていたし、無意識に傷を左手で摩るクセがあっただろうと言われればそんな気もしてくる。

「でも、どうしてその能力を私に?」

神様は私の問に暫し口を噤んだ後、大きく息を吐き出してペロリと可愛く(?)舌を出し、「間違えたんじゃ」なんて、またもふざけたことを宣った。

「本当はドカーンと左手で大砲でも打たせる能力をやろうと思ったんじゃがなあ、間違えてなあ、いやはや人に能力をやるのも随分久しぶりじゃったし」

フォフォフォと笑っているけれど、一回この爺さんぶっ飛ばしてもいいだろ
うか。生まれてこの方さして不便さを感じていない私がこんなことで怒るのは間違いかもしれないが、如何せん私の生を軽んじていないか!?

「スマン」
「……別にもういいです」

もうほっといて。私はひっそりゆっくり此処で生きるから。

「じゃあワシはそろそろ行く」

さらばじゃと神様はふわりと宙に浮いた。こういう所は神様っぽくて凄いのに。全く、我が家の血筋なんだろうか。この人が私の祖父だとはまるで実感がないけれど。「あ、そうじゃ」

「その能力、あまり人前で使うでないぞ」

わかったわかったと頷くと神様は今度こそ空に登って消えていった。それと同時に周りが動き出す。何にもなかったみたいで不思議。左手の甲の蛇は消えていないのを見るとやっぱり私はまたも神様とお話したのだろう。

そのあと家に帰る途中の路地裏で後ろ足を怪我した猫を見かけたので物は試しだと左手を翳してみると確かに自分の左足がズキズキ痛み出した。猫はちょっと驚いた顔をすると軽快な足取りで私を置いていく。こんな能力の使い道を、私はやっぱり見つけられない。

「祈らずとも朝日はやさしい」〆
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