「おいそこの若いもん」
上昇気流に乗って空を目指して飛んでいたら、途中のサービスエリアのような雲の上にドーンと胡座をかいて座るおじいちゃんに呼び止められた。若いもん、とはこれまたなんてアバウトな。辺りをチラチラ見てみるけれど上へと目指すのはご老人がたくさん。若いもんに当てはまりそうなのは私しかいないように見える。私?と確認のために指で自分の顔を指すと、こっくり頷かれた。
「は、はい」
死んでから声を発したのは初めてだったので掠れた。まあ普通は死んだら話せないから当たり前なんだけど。
「…お呼びですか」
とりあえず座れと雲の上をポンと叩かれたのでおずおずと正座をした。こんなところで説教とは勘弁してくれ。死ぬのは初めてだったからルールもマナーもよく知らない。
「まず、わしが誰か分かるか」
まさかのクイズ形式。いや大喜利だろうか。目の前のおじいちゃんは白い髭を顎に蓄えていて頭はピカピカで服は真っ白。私が生前思い描いた神様とピッタリ重なるし、これはもはや狙ってるだろうと言いたくなる見た目なんだけれど此処で神様と答えたら減点だろうか。ううむ、わからん。
「まだか」
「え、っと……神様、ですか…?」
消え入りそうな声で超在り来りな答えを言ってしまった。つまらない!とか言われて地獄へ落とされたらどうしましょう。
「間違いではない」
合ってた。だとしたら簡単過ぎる。
「だが、その前にわしはお前のじいちゃんだ」
「へ」
私のじいちゃん。つまり、あの私が産まれる前にお酒の飲みすぎと煙草の吸いすぎで早死にしたっていう私のおじいちゃん。へえ、こんなところで会うとは。
「何故わからぬ」
いや分かるかい。
「…すみません」
だって初対面だし。そう言えば仏壇の写真こんな感じだった気もするけど、おばあちゃん家行ってもそんなマジマジと見たことなかったし。そのおばあちゃんも亡くなってからは、仏壇は叔母さんに引き取られてもうずっと見てないし。分かるかい、って。
「じいちゃんは悲しい」
ええ、凄い傷ついてる?何この罪悪感。私、悪いの?ねえ。
「ご、ごめんなさい、もっと早く気づければ「違わい!」
は? こんなに早く逝きおってこのバカモンがあ!と神様はたいそうお怒りである。死んだことを責められてもあれは事故で私にはどうしようもなかったというか、いや私だって本当はもっと生きたかったし。
「自殺とは何だ!親不孝もの!」
「えっ」
違いますよ、あれは自殺じゃなくて事故だ。そう言いたかったのに頭に血が上ったらしい神様の勢いは止まらず、背中から大きなうちわを取り出すとバビュンと煽って私を雲の上から吹き飛ばした。これはどこのアニメだ?
「人生やり直せい!」
神様が雲の上からそう言ったのを最後に私は海の中に落ちた。