ブワアアアという音のあと、続けて、地が割れるような大きな爆発音が辺りに響いた。消えた尾形を探していた一行も、これには流石に足を止め、人がわらわらと溢れ出す炭鉱の方へと近寄った。
「ガスケか」
土方の呟きとほぼ同時に、名前は駆け出した。炭鉱から逃げ出してくる坑夫の中には、意識を失った仲間を背負う者、足を引きずる者、まだ仲間が中にいるんだあと叫ぶ者と様々だった。看護婦になるため、学んだ知識は大したものではなかったが、この状況でそんなことを咎める者はいるまい。名前は声の限りに、辺りの者に処置を指示する。混乱の中で誰とも分からぬ声だったが、皆言われた通り、迅速に行動した。
「…尾形さん…」
もしかして、もしかすると、この中に彼がいるかもしれない。名前は言い知れぬ焦燥感に駆られていた。白熊を探した兵隊さんがいたと聞いたのは、まだ半刻前にも満たない。白熊が、炭鉱内へと行くトロッコに乗ったとも聞いた。白熊を追いかけていた兵隊とは尾形のことだろうかと、名前は包帯を巻く手を止めることなく、目を辺りに向ける。人が多すぎて、探し人を見つけられない。
「止血はこれで、早く医者の所へ行って下さい」
巻き終わった包帯を見て。怪我した男は泣きそうな声で感謝の言葉を述べる。
「大丈夫かい兵隊さん」
反射的に顔を上げると、少し先の通風口から出てきたと思われる坑夫と、足元に、分厚い外套を身につけた猫背が見える。髪を撫で付けるその仕草を見るやいなや、名前は転びそうになりながら尾形の元へと走った。
「尾形さん!」
尾形が顔を上げるのと、名前がその胸に頭を突っ込んだのは同時だった。「おい」外套を両手で掴み、迷子だった子供のように離れない名前を軽く宥める。
「…怪我しちゃあ駄目って言ったのに」
蚊の鳴くような声を、尾形は聞き漏らさなかった。それをまた鼻で笑うと、尾形は自身の頭から彼女の小さな頭に、手を移動させ、徐に撫で付ける。
「してねえだろ」
尾形が言葉を返すと、彼女はぐいっと胸元に頭を押し付ける。医療の心得がある人間を騙そうなどと、百年早い。尾形はわずかな痛みに顔をそっと歪めた。
「あばら折れてるくせに」
外套から手を離し、顔を上げた名前には泣いた気配は見えなかったし、先程のか細い声が嘘だったと思う程に愉しげであった。「…てめぇ」尾形の声にクスクスと笑った。いつも振り回されている私の身にもなれ、と名前は思う。いつだって反省する気のない男と共にあるのは、決して楽ではない。