根城にしていた山小屋に、尾形が帰ってきたのは、日付もとっくに変わった後のことだった。ガタッと大きな音がしたあとに、ドサドサと何かが倒れ込む音が聞こえて、名前は目を覚ました。何事かと思い、起き上がって見れば、腹部から血を垂れ流した男が横たわっているではないか。うわあ、と女らしくない声を上げたことなど、もはや誰も気に留めない。薄く、血の匂いがした。

 慌てて近寄り、声をかけると、意識はハッキリとあるらしく、尾形はよおと、訳の分からない返事をした。名前は、素早く尾形の軍服を捲りあげて、腹部を見る。血が乾いているのを見ると、撃たれたのは日中といったところだろうか。

「どうしたんですかこれ」

近くにあった鞄を手繰り寄せ、ありったけ詰められた道具の中から、素早く鑷子を探り当てて、それで弾を取り出した。痛そうな呻き声が聞こえたが、そんなことに構っていられないと、処置を進めた。

「…撃たれた」
「そんなことは見れば分かります」

取り出した弾丸は、普段見慣れているものとは異なり、大きく太い。猟銃だろうかと思いながら、素早く腹部の傷を塞いで包帯を巻いた。

「二階堂さんはどうしました」

今日、というか昨日。たしかにこの男は、二階堂というも男と共に行くと言ってここを出た。名前も行くと訴えたが、足でまといになるからと、尾形に却下されたことは、まだ記憶に新しい。

「鶴見中尉に捕えられた」

ということは、尾形たちは、鶴見中尉たちに遭遇したということだ。どういう事情で撃たれたのかは知らないが、やはりこんな時こそ、自分を連れていくべきだったのではないかと、名前が拳を強く握った。何のために、人質なんてまどろっこしい肩書きでここまで来たのか、分からない。

「鶴見中尉に撃たれたんじゃない」

だから気にするなと言わんばかりに、尾形は名前の頭を強く撫でる。そういう問題では無いと言いたかったが、余計な問答で、腹の傷が悪化するのは決して本意ではない。名前は、黙って尾形を布団の上まで転がし、毛布を掛けた。それを尾形がふと笑ったように聞こえたが、確かめるのも面倒だ。

「おやすみなさい」

隣にごろんと寝転がった名前に、尾形はそっと毛布を掛けて、目を閉じた。